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ロドニー・デューの独白:41
王子を包んでいる空気がスーッと冷たく透明になっていくような不思議な錯覚が起きた。
内的に深く思索に入っていく時特有の透明な空気…。
「…そうだね。君は信用できる。『守るべきものを心に持たずに戦闘力だけ磨く』ような生き方をしてる連中よりずっと。
…売国奴にせよ、それを容認する連中にせよ。彼らは『激しい後悔』を何も知らないからこそ『正気でいれば必ず激しく後悔する事になる』ような悪事に突き進んでいけるんだろうね…」
「君は卑怯であった事に激しい後悔を持つからこそ、二度と卑怯でありたくないと思ってしまう。それは深いモチベーションになるよ…。
だがね。私が危惧するのは『卑怯であった事に激しい後悔を持つ』者は多いけど、『愚かであった事に激しい後悔を持つ』者は少ないという点だよ。
アザール派は自分達が奴隷を虐待・虐殺しておいて犯人像を『ランドル人貴族が』『ランドル人富裕層が』という風に歪めてきているだろ?」
「それと同様にランドル国内に貧困層からの不満でさえ矛先を『王家』『愛国者』へと誘導している。
『断罪すべき憎悪すべき相手』を取り違えたまま『二度と卑怯でありたくない』と思って、売国奴に操られながら王家や愛国者を誅しようとする方向へ流される人々は多いんだ」
「『二度と卑怯でありたくない』という純粋な願いさえも、愚かであれば敵意の矛先を操られて悪用される。
その現実に対して『激しい後悔』を持つ人は少ないんじゃないのか?
…そんな犯人を取り違えた断罪の罪を犯させない為には、大衆にはーー民間人にはーー下手に正義を求めさせない方が良い場合もある。
人間の罪の多くが『愚かなまま行動的になる』といった自己解放的なラジカル化によって引き起こされるものだからね」
ドミニク王子の言いたい事は分かる。
人の行動には深い後悔を動機に持つモノがあるが…
そういった純真さでさえも…
認知の歪みが絡めば人はどこまでも狂って
「正義を詐称しながら悪を為す」
ようになってしまう。
被差別者を詐称する侵略者や
被害者を詐称する加害者などといった存在を生み出したのも
後悔や悔しさや逆恨みなどといった強い感情がねじれた先で起きた狂気だ。
「…それと同じジレンマには前世でも向き合った事があります。
売国奴と侵略者に対して向けるべき排除を大衆が公的権力側の愛国者達に向ける事で、大衆自身の手によって大衆自身の保護者を抹殺してしまう可能性については、俺も考えていました。
『間者』という存在による特殊工作が不可視化されていましたから自由主義思想による工作も野放しでした」
「お陰で『ワガママな子供が厳格な親を逆恨みして親殺しを犯し、自らの手で保護者を失くす』ような事態と同じ『愛国保守層に対する不自然なまでの敵視扇動』がインテリ層の嗜みのように美化されてもいました。
だからこそちゃんと諜報工作・特殊工作というものに関しての概念を国民に分かりやすく伝える情報媒体が必要だったんですが…
売国奴と侵略者の存在やその悪事に関して風聞を広める事は『センシティブ』扱いされて情報規制されていたのが実情でした」
「それほどまでに社会全体が売国奴と侵略者に忖度して集団的自己防衛権を否定させられる狂った社会になっていたんです。
そんな環境の中では『断罪すべき相手を取り違えたまま断罪する事の罪深さ』に関して、それを理解できる者達の元へ、その言葉を伝えて、盲目な者達の目を開かせてやる事は難しかった」
「だけど目覚めるべき者達に目を開かせてやれる刺激すら与えずに、ただ一方的に『断罪すべき相手を取り違えたまま断罪してしまう大罪を犯す余地自体を封じる』ような牽制をしても、盲目な者達には『ただの無意味な抑圧』にしか感じられなかった筈です。
だからこそ国家権力も愛国者も結果的に大衆から無駄に滅ぼされるんです。
大衆の中に『似て非なるものを見分ける識別力』が育つように何の努力もしていないから」
「…売国奴達は必死に『断罪すべき相手を取り違えたまま断罪してしまう大罪』を大衆が犯すように、『覚醒したと思い込む夢』へと釣り、盲目な者達を更に盲目にしようとしてますが…
それを上回る勢いで国家権力も愛国者も『大衆の目を本当に開かせる』ように動かなきゃいけなかったんです」
「大衆に永遠に正義を求めさせずにおくのは不可能です。目隠しされた大衆を永遠に守ってやるのも不可能です。
大衆が『断罪すべき相手を取り違えたまま断罪してしまう大罪』を犯す生き物だというのなら、『当人自身もそうした誤認断罪の犠牲にされる日が来る』という因果応報体験ができるように仕向けてやれば良い。
そうしなければ『愚かであった事に激しい後悔を持ち、真実を知りたいと望む』ような者達は生み出されませんよ」
そう言って
俺が自分にとっての理想を語ると
「…ロドニー。…君は『因果応報が徹底されて起これば人々の目が開く』と言いたいんだろうが…。
人間の魂が自分自身に因果応報的体験を引き寄せるのも、それまた『因果応報を引き寄せる性質の刷り込み』のようなものがあってこそのものなんじゃないのかな?
或いは『空間』自体の性質の中に『空間内で起こる現象は必ず因果応報をもって完結する』というルールが内包されていなければならない。
それらの『法則への手出し』は双方とも君や私の手に余るものだと思うよ…」
とドミニク王子が溜息をついた。
王子の言いたい事は分かる。
大衆の内面、他人の内面に対して
俺達は余りにも無力なのだ。
確かに手に余る。だが…
「…俺もそう思ってましたよ。…ですが因果応報を受け入れず、一方的に人が人を食い物にし続けようとする。
そんな『怖い相手には忖度する』『怖くない相手は餌食にする』というテロリズム追従と婉曲的模倣は醜くて業深い。
普通の人間はその手の連中の性根に対して、その成り立ちや性質に関しても知ろうとも思わないし認識に入れようとも思わない」
「そしてそれはある時点までは正しい態度だと思いますが…国を担う者達は外道どもの『怖くない相手を餌食にする』性質の被害者枠の中から無辜なる国民を救い出さなければならない。
救い出される側も『救われた者が、いつか救う側に回る』という次へと続く運命をそこに紡ぎ出しておく事こそ、外道を根絶やしにする上で大切な事だと痛感するんです」
「『ワガママな子供が厳格な親を逆恨みして親殺しを犯し、自らの手で保護者を失くす』ような親不孝に似た保守殺しなんて程度の差こそあれ、世の中のどこででも起きてます。
『自由主義思想を盾にした諜報工作は人心分断工作だ』という事実を大々的に教えて回るだけで、聡い者達なら『自分達には似て非なるものを見分ける識別力が必要だ』という事が理解できる筈です」
俺がそう言い張ると
ドミニク王子は
「…ロドニーは楽天的なのかも知れないな。…多分、君自身が『欺瞞に耽りながら甘い汁を啜る事に耐えられない』ような潔癖さがあったからこそ、『自分が潔癖だからこそ他人もそうに違いない』と思い込んでいられるんだろうね」
と寂しそうな表情になった。
「………」
俺が黙り込んでしまうと王子は
「当たり前の事が当たり前に起こるのは『当たり前の事が当たり前に起こるように』という空間設定がある空間内に限られるとは思わないか?
私も君もビートンのダンジョン内で空間そのものから『死ね死ね死ね死ね死ね死ね』と悪意を向けられて他の者達よりも負荷がかかる経験をしたんだ。
ああいったアンフェアな空間では『空間そのものに着目する観点』が無ければ、人はただただ指針を見失なうとは思わないか?
…だが、そうだね…。『手本を残しておく』という意味では君の言う事にも一理有るのかも知れない。
後に続く者が出てきてくれない場合には、それこそ自己満足にしかならないのだろうけどね…。
人間には『自分がどんな呪われた所業に与しているのかなど深く考えずに、ただ自己開放的に活きる心地良さを求める』ような周囲の状況に全く配慮しない自己愛を望むような人も多いんだよ。
そういう人達にしてみれば攻撃の矛先を操られている事など関係ない。
『ムカついて攻撃した標的がちゃんとダメージを受ける』『自分の衝動や感情を開放し続けて周りを振り回し傷つけながらも批判を封じて尻尾を振らせる』事こそが大事なんだ。
私はそういった無責任で行動的で自己開放的な人達には何を言っても無駄だという事例を君以上に身をもって知り過ぎたのだろうと思うよ…」
と神妙に告げた…。
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