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負け組の敗者復活戦
レベッカの春休みは騒動の中で終わりーー
骨にヒビが入っている鼻も未だ痛む状態で三学期が始まった。
学期初めの試験が終わると剣術大会に向けて忙しくなる。
男子は剣術の稽古。
女子は刺繍の稽古。
日本にも「背守り」という着物の背中に紋様を縫い付けて魔除け代わりにする刺繍文化があるが…
この国でも魔力を持つ貴族女性の手芸品は魔除け効果があると見做されている。
婚約者がいる女子は婚約者用の手芸品を作ると共に
「バザー用品」
の分の手芸品をも作らなければならない。
学院の剣術大会は本番は騎士団の演習場で行われる。
観客も誘致した中で行われるイベントだという事もあり
様々な手作り品を売って売り上げを国内の孤児院に寄付する。
因みに学院の剣術大会優勝者は
騎士団所属の騎士見習いから一名対戦相手を指名して戦うことができる。
学院は文官養成校なら
騎士団は武官養成校も兼ねた軍隊。
騎士見習いは15歳から18歳。
学院の在校生徒と同じ年代。
将来の文官代表と武官代表の戦いとなるので
文官側にアドバンテージを与えるために
「魔法攻撃も使って良い」
というルールになっている。
学院は一応王立魔法学院。
攻撃魔法も補助魔法も習う。
だが魔力の質が低い人達は一つ魔法を使うだけで魔力を使い果たす。
そういう人達にとってて魔法は実用的ではない。
「魔法攻撃もあり」
の魔法学院の学生と騎士見習いとの戦いは
近年までずっと学院生の全戦全敗だった。
それが去年から変化している。
去年の優勝者はドミニク王子。
指名された対戦相手はドミニク王子と同じ歳の騎士見習い。
中等部まで学院にいた同級生の中でも武闘派だったレジナルド・クレイトン。
「進路が分かれてからどの程度強くなったのか実力を測ってやりたい」
と思ったのだろう。
レジナルドのほうでも
「俺がどのくらい強くなったか見せつけて差し上げますよ」
と不敵に宣言したらしいが…
結果はドミニク王子の圧勝。
レベッカが初めてドミニク王子と会った野外宿泊研修会の時も
ドミニク王子は他の子達より圧倒的に強かった。
研修会期間中も度々魔物から付け狙われて襲撃を受けていたし
おそらくもっとずっと幼い頃から死線をくぐり抜けてきている。
第一王子で尚且つ眉目秀麗。
何をしてもソツなくこなす高スペック。
だからこそ自分自身を守るために強くなるしかなかったし
実際に強くなった、といった所だろう…。
今年はエリアルの優勝候補の一人。
だけど、レベッカは
「ドミニク王子のようなヤンデレ高スペックの怖い男」
に
「エリアルのような正統派イケメン」
が勝てる気がしない…。
(…物理攻撃耐性・魔法攻撃耐性を付与できる刺繍糸でも開発しようかな…)
と密かに思っていたりするのである…。
********************
「学院生対騎士見習い戦で学院生が勝利する」
などといった珍事が去年初めて起きた事もあり…
「今年も何か起こるのかも知れない」
と誰もが期待していた…。
そのせいもあったという事なのか、大会当日になって
「今年から剣術大会の士気を高めるために新ルールを導入する事となった」
と去年の優勝者であるドミニク王子から発表があった。
「これまでは優勝者が得られるのは勝者という栄誉だけであり敗者が被るのも敗者という汚名だけであったが、今年からはベスト4に残った勝者は自分が打ち負かした敗者達の婚約者達の中から気に入った御令嬢を『一日婚約者』に指名して丸一日独占する権利が与えられる事となった」
「だが騎士見習いとの戦いで負ければ、その権利は勝者となった騎士見習い側へ移るものとする。
なお、このルール改定は騎士団側へも予め通知されている。
これまでは学院生の優勝者が一方的に戦う相手を騎士見習い側から選んでいたが、今回からは『一日婚約者』権を欲する騎士見習いなら誰であれ挑戦できるものとして、立候補者を募り、立候補者達のトーナメントで既にベスト4が決定している」
「ちなみに新ルール制定したての初回である今年は、騎士見習いの全員が対学院生戦トーナメントに参加したので、騎士見習い側のベスト4は実質的に剣術部門での上位4名に該当する。
新ルールは今まで大した旨味もなく学院側の剣術大会に協力してくれていた騎士見習い側へ新しく華を添える機会を与えるものでもある」
「勿論学院生側は敗者となれば一方的に婚約者が『一日婚約者』権の対象として景品化されてしまうのだから当然面白くはないだろう。
特に美人の婚約者を持つ面々はな。
基本的に敗者復活戦は行われないが、自分の婚約者が指名されて不服がある場合には『異議申し立て』権が与えられ、指名者との戦いが許可される。
『異議申し立て』権による戦いは異議を申し立てる側の尤も得意とするジャンルでの戦いとなるので武芸とは無関係のゲームであっても構わない」
「なお『異議申し立て』権はベスト4同士の戦いの勝者達がそれぞれ望みの御令嬢を指名し終えた時点で発生する。
指名権の優先順位は一位、二位、三位、四位の順番に沿って行われるものとし、下位の者は上位の者と相手が被らないように指名してもらう」
「新ルール自体に不服のある者もいるだろうが、この新ルールは学院長並びに騎士団総長、国王陛下の承認を得て改定されている事を理解しておいて欲しい。
よって、正式な手続きを経て改定されたこの新ルールを、今回から適用し、ここに今年度の王立魔法学院主催の剣術大会を開始するものとする!」
そうドミニク王子が宣言すると
予め新ルールが伝えられていた騎士団側から
おぉぉぉぉ〜っっ!!と歓声が起こり
今初めて新ルールが告知された学院生側から
えぇぇぇぇ〜っっ??と驚愕ともブーイングともつかぬ声が起きた。
不条理にも自分が『一日婚約者』とかいう景品にされるかも知れないと、急に不安になった令嬢達が
「「「なんて横暴な!」」」
と怒り出したが…政略結婚の駒として婚約者を定められてる身なので
男達の横暴さに(パワハラに)振り回される事態に関しては
「何を今更」
といった感じである。
ただ、王立魔法学院主催の剣術大会の筈なのに…
随分と騎士団のたむろする観客席側が活気付いている。
考えてみれば騎士見習い達にも婚約者がいる者達は多いのに
騎士見習い達は自分の婚約者が景品化されるリスクを負わず
一方的に「略奪者」側の立場で
学院生側の強者と戦って旨味だけ得られるのだ。
そもそもが騎士見習い達は
中等部までは一緒に学院に通っていた顔馴染みばかり。
それが
「嫡男じゃないから」
「勉強が苦手で文官向きじゃないから」
といった負け組的理由で騎士団入団した者達。
…何気に学院生側へ劣等感を持っている者も多い。
こういった交流イベントで有利なゲスト参加が出来る新ルールは
騎士見習い側の劣等感を晴らす目的で考え出された可能性もある。
(「敗者復活戦は行われない」とか言いながら、騎士見習い側を4人もゲスト参加させる事自体が騎士見習い達の敗者復活戦だよね…)
とレベッカは思った。
中等部までは学院生には男子も多く、体育祭や武芸大会は賑わっていた。
中等部はカリキュラム自体が文官向けとも武官向けとも区別がなく
一般教養と肉体的鍛錬が中心であった。
ところが高等部になるとーー
男子の武芸は剣術に限定され、馬術や弓術や槍術や走り込みが無くなった。
代わりに戦術やディベートなどの頭脳戦部分での管理職必須課程が高等部に進学した男子の学習課題に加わった。
そうしたーー
「頭脳戦」を行うための基礎として
哲学系の「思考概念客体化知識」が必要となる。
論理戦の有益な点は
「人間の行動原理の根本に在るものが次々と暴き立てられていく」
といった点である。
「こう言われればこう言い返しておけば良い」
「こういう状況ではこう振る舞えば良い」
といった刷り込み済みの機械的模範回答を繰り返しながら人は生きている。
自動化・機械化された反応。
その奥には「経験に基づく動機」が隠されている事もあれば
後付けで「動機」が生み出される事もある。
他人との論理戦を行う中で
「どの程度の人間なのか」
が分かってしまうのが頭脳戦の面白い所でもある。
(中身が空っぽの人間にとっては怖い所でもある)
基本的にカルト洗脳されている者達は
刷り込み済みの機械的模範回答だけを延々と繰り返す。
機械的模範回答の奥に「経験に基づく動機」があるわけではない。
カルト洗脳されている者達は「機会的模範回答を強固に刷り込まれている」という事実の中にこそ「経験に基づく動機」があるのだ。
自覚のない恐怖で蹂躙されて
恐怖に屈し
仄めかしの脅迫に屈し
脅迫者の言いなりになっている状態…。
なのに自分がそういう状態にある事にすら気付かずに
脅迫者に尻尾を振り続ける。
カルト洗脳されている者達はそうした
「無自覚なストックホルム症候群」
を拗らせている。
論理戦による「相手の内面の暴き立て」は
そういった人心操作術罹患状態(ネット端末のウィルス感染状態と同じ)の実態をも暴き立てる…。
哲学と諜報(人心操作)には密接な関連があるのだ。
意識の次元が低い状態だと
「相対的不幸を絶対的不幸だと錯覚する」
誤謬が起こるし
意識の次元が低い社会だと
「人海戦術によって相対的不幸を絶対不幸だと必然的に錯誤させられる」
人災が起こる。
(侵略者でありながら自分達を被差別者だと本気で思い込み、在住国に寄生虫のようにしがみつき、祖国へ帰ろうともしない人達はこの部類)
ショックドクトリン式に自国内権力図を塗り替える。
他国の権力安定を攪拌して内乱を引き起こさせる。
人心操作術は悪用が可能なのだ。
大衆が盲目的な民草(植物)だとするなら
哲学者(知識人・上流層)は植物を蝕む害虫でしかない。
施政というものの本質は
自分という存在が民草を蝕む害虫の一匹でしか無いと
そう自覚した害虫が
「我、盲目なる民草のための益虫たらん」
と決意し…
搾取しながらも共存共栄を目指し
共存共栄を実践した時に社会内で踏み固められる
「予定調和の鋳型」
なのである。
それを悟らせることが
次世代の上流層や文官希望者に学ばせる管理職必須課程の意義なのだが…
不思議なくらいに何も悟れない者達は何も悟れず
退屈を持て余しながら目先の欲に流され続ける…。
「自分達は選ばれた存在だ」
と尊大な勘違いを増長しながら…。
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