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勝者の権利
剣術大会はつつがなく進行し、特に大きなアクシデントもなく初日を終えた。
男子は強制的に全員参加なので、初戦で負ける者も一度は戦わなければならないという事もあり、それなりの回数の試合が組まれている。
だが長々と打ち合うほどに実力が拮抗している組み合わせは滅多になく、強い者は強い、弱い者は弱いとハッキリしてる。
騎士団内の模擬戦などよりも呆気なく決着が付いている筈だ。
それでも試合数自体が多いので二日掛かりで行われる。
試合数は初日でだいぶ捌けたが、見応えのある試合が増えるのは二日目。
初日の試合に関しては去年の好成績者達はシード選手扱いで出場しないので、エリアルの籤運が悪くて強敵に当たって初日で負けるような心配は必要なかったものの、二日目はそうもいかない。
ーーと言っても
去年の優勝者(ドミニク)と準優勝者(ロードリック)が出場するのは準々決勝からなので、それ相応の実力がある者にとってベスト8に入るのは難しくない。
エリアルは
(準々決勝でドミニク王子にさえ当たらなければベスト4には確実に入れる。グレッグ王子もロードリックも排除できる)
と自信を持っていたし、実際に自信通りの実力があった。
準々決勝でエリアルはグレッグ王子と対戦し
準決勝ではロードリックと対戦。
危なげなく蹴散らした。
ドミニク王子との対戦が決勝戦だったお陰もあり
今年の準優勝者はエリアルとなった。
決勝戦終了後に三位と四位と決めるため準決勝の敗者達が戦った。
ロードリック・クロックフォードとスタンリー・アッテンボローの対戦。
ロードリックの勝利によって学院生側の一位から四位は
一位ドミニク・レヴァイン
二位エリアル・ベニントン
三位ロードリック・クロックフォード
四位スタンリー・アッテンボロー
と決まった。
騎士見習い側の一位から四位は
一位ケヴィン・ブロンソン
二位レジナルド・クレイトン
三位ジョエル・キングズレイ
四位デニス・オブライアン
という面子。
四位同士の試合
三位同士の試合
二位同士の試合
一位同士の試合
という順番で試合が行われ
スタンリー・アッテンボローとデニス・オブライエンの試合ではデニス・オブライエンが勝利。
ロードリック・クロックフォードとジョエル・キングズレイの試合ではジョエル・キングズレイが勝利。
エリアル・ベニントンとレジナルド・クレイトンの試合ではエリアル・ベニントンが勝利。
ドミニク・レヴァインとケヴィン・ブロンソンの試合ではドミニク・レヴァインが勝利。
御令嬢に対する『一日婚約者』の指名権は
一位ドミニク・レヴァイン
二位エリアル・ベニントン
三位ジョエル・キングズレイ
四位デニス・オブライエン
という順番になった。
しかし
「誰が誰を指名するのか」
が公衆の面前で晒されるのは
「好みの女性のタイプがバレバレになる」
という問題があるので…
「いざ指名せよ」
と言われても
「皆気恥ずかしくて辞退するのではないか?」
と予想する者も多かったが…。
面の皮の厚い人間は居るものである。
指名権一位のドミニク王子が意地の悪い笑みをエリアルに向けながら
「レベッカ・ルース嬢を指名する」
と言い放った時には
((((((…そういう人だよな…))))))
とドミニク王子の性格の難儀さを再認識した者も多かった。
エリアルはかねてからの自分の主張通り
「女性を景品扱いする事は女性に対する侮辱だ」
とドミニク王子を睨みながら指名権を辞退。
ジョエル・キングズレイは少し考え込んでから
「…今回は指名権を辞退する」
と宣うた。
デニス・オブライエンはと言うと
「…『一日婚約者』の指名権というのは景品として結構ビミョーだと思うぞ。自分にも婚約者がいる身だと自分の婚約者の不興を買って、他人の婚約者とデートする訳だからな。…よほどシャレの分かる婚約者に恵まれてないと無駄に揉め事の種になる」
と、渋い顔をして、物欲しげな視線を学院生席の御令嬢方に向けてから
「俺も辞退させてもらう」
と溜息を吐いた…。
デニスの意見に皆が納得してウンウンと納得した後
実行委員の一人がエリアルに対して
「『異議申し立て』権を行使しますか?」
と尋ねたので
エリアルはすかさず
「勿論」
と返事をした。
「どんな形式の対戦を申し込まれますか?」
との問いには
「ゲームで」
と答えた。
性格に難がある以外ではドミニク王子は何をしてもパーフェクト。
エリアルは純粋に運任せの対戦を申し込む事にした。
サイコロを振って、サイコロの数だけコマを進めるゲーム。
いわゆる「双六」だ。
(幾らドミニク王子でもサイコロの目を自在に操作する事はできまい)
と誰もが思った。
だが蓋を開けてみればーー
((((最短ルートでゴールできる目数を計算してサイコロの目まで操ってるんじゃないのか?))))
と疑いたくなるような強運でドミニク王子があっという間にゴールした。
お陰で
((((…触らぬ神に祟りなし。…この人には逆らっちゃいけない。というか関わらずに済ますのが無難だ…))))
と畏怖感に満ちた視線がドミニク王子に注がれ
((((気の毒に…))))
といった同情の視線がエリアルへと集中砲火で注がれた…。
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