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「みんなそれぞれで幸せになりますよーに!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
かちん、とグラスが鳴る。ちらりと隣を見ると黄金色の液体がごくごくと吸い込まれていて、これはもしかしたら結婚報告するつもりだったのかな、とも思う。彼女が言わないと決めたなら私からは何も言わない。
それにしても、もう結婚するような年になったのか。
ジュースのような丸さのその奥にアルコール独特の何とも言えない苦みを見つけた。
市内の高校からの彼氏とともに進学し、就職も地元で済ませた彼女がプロポーズまでの経緯を嬉しそうに話す様を見ながら、大人になった実感なんて1ミリもないや、とカシオレをまた一口飲む。アルコールだって、飲もうと思えば子供でも飲めるのだ。安っぽい甘い酸味が口の中に広がった。
「ことのは?伊勢君とはどーなってんの?」
いつの間にか帆乃実からみんなの恋愛話に移っていた。楽しそうだなーとぼんやり眺めていたら、きっと目が合ってしまったのだろう、話を振られてしまった。慌ててタブレットを出してメモ帳に文字を打つ。
『まだ、一応、付き合ってはいるけど、』
「おー!よかったよかった」
「結婚しないの?」
「何年目だっけ」
『放送初めてからだから、高2からかな』
「帆乃実といい勝負じゃん」
「他に高校の時から続いてる人いないの?」
「あー、ほら今日来てないけど真里とか」
「別れたんじゃないの?」
「それがさー、」
話題がそれてほっと息を吐く。真里ちゃんの話も知っている。実は結構な頻度で相談を受けているのだけれど、見せれば察するかな、と真里ちゃんの投稿を開いて見せる。
「あ、それ!全然気にしてなかったけど、それ復縁した彼氏だったんだ」
「なに、さとちゃん新しい彼氏だと思ってたの?」
「いや普通に考えたらそうでしょ、意味深投稿が復縁だとは思わんて」
「で、そうだよ、ことの。結婚しないの?」
ああ、戻ってきてしまった。
社会人として生きていると、話すことのできない私には基本的に話が回ってこない。
ただこうして、昔の友人たちと集まるとどうしても話を振られてしまう。彼女たちは私の事情を知っているし、それをわかっていてもなお参加できるようにと気を回してくれていることは痛いほどにわかっている。それでも申し訳なさは拭えないし、待たせてしまう間の沈黙はいつまでたっても慣れない。
『どうだろう…同棲は、してるんだけど』
「同棲始めても結構じゃない?」
「卒業してすぐだっけ」
こくり、首を縦に振る。彼は、きっと、同情と庇護で私の傍にいてくれているのだ。私に愛があるからじゃない。
「うわー、いいなあ彼氏ほしー!」
「あれ、去年はいらないって言ってなかったっけ」
「もうあんなくず男はいらないって意味!スパダリがいい!」
「はーい無理無理」
「スパダリは藍佳の彼氏でしょ」
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