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市の中心からJRで10分、そこから歩いて15分。
最寄りに降りたつまでの間に、心配していた通りに雨が降り始めた。まだ本降りではないとはいえ、15分も歩いたらしっかり濡れてしまうくらい。
ちょいちょい、と真偲くんの服の裾を引っ張る。
『かさ、どうする?』
残念ながら私には傘を持ち歩く習慣がない。人生の半分以上、雨が降る「かもしれない」時は絶対に「降らない」、もしくは「絶対降る」経験をしてきたのだ。そりゃあ天気予報に気を付けて、折り畳み傘を持つなどといいう面倒で不規則な行為が習慣化するわけがない。
「…しかたないね、買っちゃおう」
苦笑いした真偲くんに手を引かれてコンビニへ向かう。時々利用する駅併設のそこは、こうして仕事帰りや飲み会帰りの客が多いのだろう、カップ麺やおにぎりなどが充実しているだけではなく、雨予報だったこともあるのか雨具もしっかり用意されていた。
ピンポーン、外に出れば必ずどこかで耳にしている音に出迎えられ、やる気のない店員さんがらっしゃっせ―と、日本語には存在しない言葉を発する。それすらも日常と化している。
入ってすぐ左手、いつも通り、ちょっぴりお高めだけれど二人で入っても大丈夫な大きい傘を手に取る。しっかりさんの真偲くんも、こうしたこまごまとしたところでどこか抜けがちだ。かといって傘が家に溜まるわけでもなく、外出先で二人して失くしてくるから、お金と同じように傘も循環するのだと思うことにしている。
そのままレジに向かおうとする真偲くんの袖を再び引っ張る。ん?とこちらを見たその綺麗な顔面に、私の欲望を突き付けた。
『アイス食べたいです』
お酒を飲んだ日は決まってアイスが食べたくなるのはなぜなのだろう。甘ったるいチョコレートのアイスを選んでは食べきれず、それを見越した真偲くんが選んだ紅茶味だったり抹茶味だったり、ちょっとさっぱりしたアイスと半分こするのだ。
「言うと思った」
画面に浮かんだ文字を見て、今日もどうせチョコでしょ?と私の手を引いた。
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