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「そうか……残念だな。中條のような優秀な部下を失うのは、とても残念だよ」
「編集長…ありがとうございます」
春海は微笑み会釈して続ける。
「私の後任には、黒木が兼任してくれると言っています」
「そうか。まぁ、記事は社員達で仕上げられるほどになっているから、問題ないだろう。いつまでいられるんだ?」
「年末の12月31日を期限に考えております」
「うん、分かった…」
春海は姿勢を正し、編集長へ挨拶をする。
「今まで大変ご迷惑をおかけし、沢山ご指導頂きありがとうございました。長い間、お世話になりました」
涙を浮かべ深く頭を下げる。
「中條、世話になったな。ありがとう。幸せになれよ、高堂の分まで…」
編集長の言葉に春海は顔を上げ、涙を流して笑顔で答えた。
「はいっ、必ず…」
そう言ってもう一度頭を下げ、編集長の部屋をあとにした。
12月に入ると、春海は引っ越しの準備に追われていた。家具や家電は『カモメ』のメンバーがほとんど引き取り、雪也の遺品は壊れないように緩衝材を入れて箱に詰め、必要な服や雑貨を箱に詰めそれらを鈴乃の部屋へ送った。あとは箱にまとめ実家に持って行き、車は実家に預かってもらう事にした。
12月の第2金曜日、春海の送別会が行われ、後任の黒木も参加し盛大に送り出してくれた。
そして12月23日クリスマスを鈴乃と過ごす為、春海は部屋を引き渡しタクシーで空港へ向かった。朝10時発、ニューヨーク行。
搭乗手続きをしてゲート前で待っていると、アナウンスが流れ春海は搭乗ゲートを入り機内へ向かった。航空券に書かれた座席を見つけ、席に座る。窓から外を見ると、走って展望台に出て来る佐々木が見えた。
「和正っ!」
必死にこちらを見て春海を探しているのが分かる。春海は手を振り知らせるが気づかない。まだ離陸はしていない。とっさに春海は携帯を出し、佐々木に電話をした。
「来てくれたんだ。真ん中より少し前、手を振ってる」
《あっ、見つけた! 間に合ってよかった。皆も行ってらっしゃいって言ってたぜ》
「うん。行って来ますって伝えて」
《うん、言っとく》
「和正、ありがとう。行って来るね」
《あぁ、春海。またな。行ってらっしゃい》
電話を切り電源を切って鞄へしまう。窓の外を見て手を振り合う。ゆっくりと飛行機が動き出し、ニューヨークに向けて飛行機は飛び立った。
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