恋とか愛とか

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春海は機内の窓から外を眺める。機体が青空を突き抜けて上昇すると、ふわふわで白い綿菓子のような雲が機体の下に広がった。ふわふわの雲が遠くの方まで広がり、アニメのように歩いたり寝転んだり出来るんではないかと想像して、春海はフッと笑った。 地上では見る事の出来ない景色を眺めながら、春海はこれまでの自分を振り返る。 大学で雪也と出会い交際を始め、同じ職場へ就職して結婚を約束した。幸せの絶頂にいた春海だったが、雪也との婚前旅行の帰り事故に巻き込まれた。 雪也はとっさに春海をかばい、その事故で帰らぬ人になってしまった。春海にとって雪也を失った事はとても大きく、生きる意味を失った。 なぜ今、自分だけが生きているのか。なぜ雪也は自分を生かし、一緒につれて逝ってくれなかったのかと恨んだ事もあった。 最愛の人を亡くし、生きている意味さえ分からず抜け殻になった春海は、雪也以上に愛せる者などいないと思い、恋を捨て、愛を捨て、仕事に打ち込み自分の気持ちを奥深くに閉じ込めて必死に生きていた。 そんな春海の前に鈴乃が現れ、鈴乃の存在が佐々木や黒木を動かし、春海の心を解き背中を押した事で、春海はまた恋をし愛する事が出来た。 恋とか愛とかというものは、難しいようで本当は簡単な事なんじゃないかと春海は思う。人と人との出会いは突然や偶然、もしかしたら必然かも知れず、いくら自分が限界だと思っていても、簡単に目の前に現れて気づかないうちに心を持っていく。 それは拒否をすればするほど、繋がりは深くなり想いは強くなる。 (恋とか愛とかって、ほんと厄介だ。だけど、生きる意味を教えてくれる) 今思えば春海があの日、雪也の命日に自棄(やけ)を起こし飲めない酒を煽り、鈴乃とあの店で出会ったのは必然だったかも知れない。 雪也と感性が似ている鈴乃を、雪也が春海に会わせたのかも知れない。恋や愛を知らない瞬に、春海を会わせたのも雪也かも知れない。 2人が再会したのも、恋をし愛し合い結婚したのも全て、雪也がさせたものかも知れないと、春海は思わずにはいられなかった。 春海は太陽の光で輝く空を見つめ、雪也に語りかける。 (雪也……見てる? 私を生かしてくれてありがと。私、今、すごく幸せだよ…) 『あぁ、見てるよ。俺は春海と瞬の中にいる。いつもそばで見守っているよ』 子供のように笑う雪也の笑顔が空に浮かんだ。 END
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