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新メンバー
ヒカリ出版。
主にエンターテイメント方面の雑誌を手掛けている出版社。自社ビル1階は経理部、2階は営業部、3階は編集部、4階は編集長や営業部長の部屋があり社長室もある。
春海が所属する編集部は、5種類のジャンルに分かれ活動している。美容、書籍と映画、音楽とゲーム、飲食、旅行とレジャー。春海は旅行とレジャーを担当している。そして雪也は、音楽とゲームの担当主任だった。
3階の編集部は6つの部屋に分かれており、それぞれのオフィスになっている。一部屋は担当主任達が集まり会議をする部屋になっていた。
春海と新山は自分達のオフィスに入ると、皆揃っていた。新山は自分の席に着き、春海は自分の席に行き挨拶をする。
「おはよう」
「おはようございます!」
一斉に皆が挨拶をする。
「じゃ、朝のミーティング始めようか」
春海の担当するこの編集グループは、毎朝9時からミーティングがあり、取材の報告や情報の伝達、メンバー同士で記事のチェックなどを行う。気づいた事やアイデアがあれば話し合い、このグループで数ページの情報記事を作る。
早ければ30分、長ければ午前中が潰れる事もあるが、皆、納得するまで話し合うのが春海のグループだ。通称『カモメ』
カモメは、夏にユーラシア大陸やカナダ、アラスカなどで繁殖し、冬になるとアフリカ大陸やヨーロッパ、アメリカや中国などへ南下し越冬する。
春海と取材で広く活動する部下達を、海の上を飛ぶカモメに見立てて社内では『カモメ』と呼ばれている。
ミーティングが終わると皆、早速取材に出かけて行った。春海はオフィスに残り、次の企画や取材の交渉などを始める。他にもオフィスに残った社員はそれぞれの仕事を始める。
パソコンで仕事をしながらふと、春海の脳裏に朝の事がよぎる。デスクの引き出しを開け、鞄から財布を出し中を確認する。そして、昨日の記憶を思い返す。
(雪也の墓参りをして、電車に乗って途中で降りて、ファミレスでご飯食べたっけ。その時には…)
春海は財布に入っている札を数え、小銭を確認する。
(レジで支払った時に見た量と同じだ。減ってない…えっ、でも、その後BARに入って、確かカクテルを3杯? か4杯? 飲んだ気が…)
本来、春海は酒を飲めない。付き合いで飲むにしてもサワーや酎ハイだとコップ半分くらいで酔いが回る。普段なら酒はほとんど飲まないのだ。だけど昨日は雪也の命日。彼に会いたくて、寂しくて、春海はその気持ちを忘れたくてBARに入り、カクテルの中でも一番アルコール度数の高いカクテルを煽ったのだった。そのせいで少しまだ頭が痛い。
(だけどまさか、あんな事になるなんて……ってか、BARの支払いってもしかしてあの人が?)
メモを思い出す。
(でもまぁ、こっちはそれよりも酷い事されてるんだし……はぁっ、私自身の問題でもあるよな……一生の不覚…ごめん……雪也)
春海は心の中で雪也に謝罪し、もうしないと誓った。
仕事を終えて家に帰ると、昨日持っていた鞄を開け、袋に入った草を捨て他になくなっているものがないか確認する。
(大丈夫だ。何も取られてない。携帯はロックかけてるし、大丈夫みたい)
春海は何だか不思議な気持ちだった。酔い潰れて見ず知らずの人に抱かれたみたいだが、お金やクレジットカードといった金品は一切取られておらず、逆にBARやホテルの料金は支払われている。そして、起きた時のアラーム。なぜわざわざ8時にアラームをセットしてくれたのか? ただヤルだけの相手にそんな事をするだろうか? と考え始める。不可解な事はまだある。
脱がせた服は皺にならないようにか、ソファーの背もたれに掛けられ、下着は上下揃えてソファーに置いてあった。まるで恋人の服を扱うかのように。そして、最後にメモ。春海が見たメモは、自分の携帯番号を書き『また会いたい』と書いてあった。
(会ってどうするつもりだったんだろう。付き合いたいとでも言うつもり? それともセフレ? そんなの私には必要ない)
ホテルでそう思って春海はその場でメモを捨てたのだった。
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