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半年後。
仕事も順調に進んで毎月色んな特集を組みながら、春海は日々を過ごしていた。4月に入り1週間が過ぎた頃、ヒカリ出版に新入社員が入った。営業部に2名、編集部に5名、各担当に1名ずつだ。
春海を含めた5名の主任達は、会議室で編集長と新入社員を待つ。部屋の外で足音が聞こえ、5名の主任は椅子に座り直す。部屋のドアをノックする音が聞こえ、誰ともなく返事をすると、編集長がドアを開け部屋に入って来た。
「あ、悪いな。遅くなって。中、入って…」
編集長が春海達に謝り、後ろにいる新入社員達に声をかけた。ぞろぞろと中に入って来て、春海達主任の前にあるテーブルを挟んで向かい側に立った。
「えっ…」
一番最後に入って来た男性社員が春海の前に立ち、驚いた声を上げ、春海が見上げると目が合った。春海はすぐに視線を編集長に移し、編集長が彼らに声をかける。
「どうぞ、座って」
そう言うと彼らは椅子を引き、各主任の前に座った。そして編集長の話が始まる。
「今、君達に座ってもらった前にいるのが、君達の配属先の主任達だ」
春海はポケットから名刺入れを取り出し、名刺を1枚出して目の前の彼に差し出す。他の主任も一斉に名刺を差し出した。
「中條 春海です。よろしく」
春海がそう言って微笑むと、彼は名刺を受け取りジッと見つめて小さく呟いた。
「はるみって……言うんだ……」
(ん…? 何だろ? 名刺を見つめて……そんなに珍しい名前でもないのに…)
春海は首を傾げて彼を眺めていた。そして編集長から春海達に伝えられる。
「じゃ、主任達は彼らをオフィスに案内して。あとは任せる」
「はいっ!」
春海達は同時に返事をして、それぞれのオフィスに入った。
美容、書籍と映画には女性1名ずつ、音楽とゲーム、飲食、旅行とレジャーには男性1名ずつが入った。
オフィスに入って春海の横に立たせて、彼に自己紹介をさせる。春海もまだ彼の名前を聞いていない。社員達は彼に注目し静かに聞いていた。
「鈴乃 瞬です。よろしくお願いします」
鈴乃が頭を下げて挨拶をすると、皆が「よろしく」と声をかけた。春海はすぐそばのデスクを鈴乃に使わせ、仕事は皆に付いて覚えて欲しいと伝えた。すると早速、皆が鈴乃を質問攻めにする。春海はその様子を笑顔で眺めていた。
鈴乃 瞬、22歳。
大学卒業後、ヒカリ出版に就職。大学ではグラフィックを専攻し、アルバイトで広告のデザインや写真のアシスタントなどの経験を持つ。モデルの経験もある。
「へぇー、じゃ、鈴乃君モテるでしょ」
新山がすかさず訊く。すると照れる事も謙遜する事も無く、鈴乃は答える。
「まぁ、そうですね。彼女には困らなかったかな」
「おおぃ! 何かムカツク!」
カメラ担当の佐々木が鈴乃に激しくツッコミ、場が和む。すぐに鈴乃が皆と打ち解けているのを見て、春海はまずは一安心した。
佐々木 和正、30歳。
勤務歴8年目、『カモメ』のカメラ担当。取材や撮影の時は、佐々木が指示を出し活動する。編集部全体で、カメラ撮影に関して佐々木の右に出る者はいない。ちなみに、独身、彼女無し。
「主任、鈴乃君の歓迎会いつやる?」
佐々木が何だか嬉しそうに春海に尋ねる。するとカメラ助手の宮家が佐々木に言う。
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