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「思うんだけど」  いきなり声をかけられて、月人は読書の途中で本から目を上げた。すぐ隣の席に座ってこちらを斜めに見やっている朔夜に、月人は首を傾げてみせた。 「なに」 「君って来年受験だよね。いいの? 小説ばっかり読んで」 「ああ、そんなこと」  月人は短くため息を落とすと、本に顔を戻す。 「別に。俺は大学なんてどこでも入れればいいから。親に期待もされてないし」 「屈折した言い方するね」 「いいんですよ、俺には出来のいいオリジナルがいるから」 「オリジナルって?」 「双子の姉。姉がいればうちは万事問題ないんだ」  気のない口調で言う言葉の途中で、読んでいた本を手から抜き取られ、月人は不承不承朔夜の方に向き直る。 「なんですか」 「なんですかって。そっちじゃなかったっけ? 電話してきたの。用があったから呼び出したんじゃないの」 「用っていうか……」  確かにそうだ。が、別に大した用事はない。などと言ったら怒らせそうだが。  最近、彼とは時折会って話をするようになった。もっとも話といっても海辺で散歩したあの日のような深い話をすることはなかった。もう一度切り出すには勇気がいる内容だったし、朔夜がなんとなくその話題を避けているような気配を感じたから。  彼の心を知りたいと思う。けれど、彼が語りたがらない以上、掘り返すことは躊躇われた。結局、読んでいる本の話や、映画の話、その他当たり障りのない話ばかりを重ねてしまったけれど、そのおかげなのか、軽口をたたき合うことができるくらいにはなった。  とはいえ、相変わらず素直に自分の思ったことを言えないでいるのには変わりがない。 「すみません……」  言い訳も浮かばなくて謝ると、彼は軽く肩をすくめる。怒らせたかな、と不安になったとき、ふいに彼が手を伸ばす。 「教えてやろうか、勉強」  机の上に置かれた本を取り上げ、ぱらぱらとめくりながら朔夜が横顔で言う。月人はその横顔を眺めながらぼんやりと思う。相変わらず美人だな、と。 「聞いてる?」 「聞いてる」  ふいをつくように覗きこまれて、見つめていたことがばれないようとっさに顔を逸らして答えると、朔夜はことんと本を机に戻して言った。 「勉強できて悪いことなんてないし。君はやればできるタイプだと思う」 「なんでそんなのわかるのさ」  むっつりと言い返すと、朔夜は片肘で頬杖をついて月人を見やった。 「馬鹿みたいに本たくさん読むじゃん。しかも結構難解なのもさ。大学入試なんて、日本語を正しく理解して、記憶すべきものを記憶してればなんとかなるものだから。日本語の理解って、案外みんなできてるようでできてないからね」 「なんか……先生みたいな言い方」 「先生だってば」
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