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 棘を含んだ声で問うと、朔夜はぎょっとしたように月人を振り返った。 「そんな風に見える?」 「現にいまそんな感じですけど」 「誰でもなわけないでしょうが」  憮然とした顔で呟いて、朔夜は月人の腕を離す。 「なに。家に呼んだのが不満? だったら別にいいし」  ふいっと彼は顔を背ける。頑ななその仕草は、月人より十二も年上にはとても見えなかった。  ちょっと、かわいいと思ってしまう。 「正直、今倒れそうだ」  訴えると、彼はふっとこちらに顔を向ける。怪訝そうに首を傾げる彼から月人は目を逸らす。 「緊張して、倒れちゃいそうなんで、お宅に伺ってもいいですか」  ちらりと様子を窺うと、彼は呆気に取られた顔でこちらを見ていた。自分で呼んだくせにふざけるなよな、どんだけ恥ずかしいの我慢して言ったと思う、と軽い殺意すら覚えたとき、月人はその感情が綺麗に洗い流されるのを感じた。彼が、そっと微笑んだから。  触れると切れそうなほど整った顏の彼が微笑むと、嘘のように印象が変わる。  温かくて、陽だまりのように見える微笑み。ここが往来であることも忘れて見とれる月人に、彼は言った。 「どうぞ」
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