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4
殺したい人でもいるんですか。
ああ、いるよ。
初対面の相手にあんなにあけすけに答えるなんてずいぶん変わった人だ。いや、そもそもはこっちが変な質問をしたからか。まったく我ながら妙なことを言ってしまったと思う。
反省しつつ、月人は図書館の入口を抜け、軒下で傘を開く。
まあ、年上のようだったし、年下の戯言を面白がって受けただけかもしれないが。
そこまで思って月人はまだ降り続く雨の中、傘を少し上げて図書館をふり仰ぐ。
また会えるだろうか、そんな思いで迎えた次の土曜日、月人は再び彼を図書館で見つけた。
彼が積んでいる本を遠目に見て、月人は顔をしかめる。
「人体解体法」「チェーンソーの使い方」。
今日もまた常軌を逸したラインナップだ。
本をめくりながら時折ノートになにやら書き込みをしている。その顔は真剣そのもので、確かに殺害計画に心を砕いているように見えなくもない。
美しい外見には似つかわしくないおどろおどろしい本の数々をかじりつくように読んでいる彼の横顔、そしてその熱意がやっぱり気になった。
声をかけてみたい、そう思ったけれど、月人は結局その日、声をかけることができなかった。
あまりに真剣だったから邪魔することが躊躇われたのも一つ、だが一番は、よく知りもしない人に声をかけたことなど、これまで月人にはなかったからだ。
後ろ髪を引かれる思いは図書館を出た後も続き、次の週の土曜日、まさか今日はいないだろうと思って訪れた図書館で彼を見かけたとたん、どうにも我慢できなくなった。
いつもの窓際の席で、やはり本を周りいっぱいに積んで、メモを取りながら、彼はむさぼるように本を読み漁っていた。
どうしよう。しばらく観察して、月人は思い切って立ち上がる。
二度目までは偶然。でも三度目からは必然。そう言っていたのは誰だろう。もちろん、これもまた偶然だろう。でも、もしかして四度目はないかもしれない。それは、嫌だ。
なぜか猛烈にそう感じた。
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