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 飛行機の時間が迫っている。  ごった返す空港内、キャリーケースを引きながら月人はスマホを耳に当てる。 「鳥海です」  名乗ると、電話の向こうでデスクの北川が、おお、と眠たげに返事をした。 『そうか、これから発つんだったか。貫徹明けだろ。よく起きられたなあ』 「デスクと違ってまだ若いんで」  軽快に切り返すと、北川は、かわいくねえなあ、と笑った。 『入社時はよく寝坊して怒鳴り散らしてやったのに。二年も経つとこうもふてぶてしくなるかね』 「それはともかく、一時間で着きますから、着いたらすぐ現地に向かいます。その後張り込みますんで」 『おお、頼む。けどさあ』  ぐしゃぐしゃと髪の毛を盛大にかき回す音が聞こえる。北川の癖だ。 『お前、仕事、少しは選んでもいいんだぞ。なにも地方議員の浮気の取材なんて、お前が行かなくてもほら、西とかに行かせても』  西は今年入った新人だ。フットワークは軽いがまだまだミスも目立つ。 「俺だってまだ二年目です」 『お前はまあ、だけど要領もいいし、大体お前、他にも五本原稿抱えてたよな』  大丈夫か、と問われ、月人は軽く受け流す。 「大丈夫です。取材は済んでますから、仕上げて後程メールします。それに仕事に大きいも小さいもないです。大体、芦屋議員は国政に転向するって話が出てる人ですし。後ろ暗いところのある人に国政は任せられませんから」 『そうだけどさあ』  北川はうーん、とうなった。 『ちょっとオーバーワーク気味なんじゃないかって、みんな心配してるんだよ。この間まで北海道で、今日は島根って……』 「パソコンさえあればどこでも記事は書けますし。大丈夫ですから」  しかしなあ、とまだなにか言いたげな北川の声にかぶるように搭乗手続きのアナウンスが鳴り響くのを片耳に聞き、月人は電話を切り上げにかかった。 「また連絡いたしますので」  気をつけろよ、と言う声を最後に通話を切り、月人は足早にゲートへと向かった。
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