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「なにを言い出すかと思ったら」  朔夜は流しにもたれたままマグカップを唇に当てて、笑う。 「七年前に言っただろ。全部復讐のためだって。鳥海風花に復讐するのが俺の目的だったし。それを果たすためには君に近づく必要があった。だから寝た。それ以上のなにがあそこにあったって言いたいの。いい加減夢から覚めなよ」  嘲るように笑う彼の顔に視線を当てたまま、月人は冷静に確認した。 「あそこに、本当に愛情なんてかけらもなかったってあんたは言うんだな。復讐のためだけに俺に好きだって言ったって、そういうこと?」 「だからあの時もそう言ったはずだ」 「じゃあそれならそれでもいいよ。だけど、じゃああんたはなんで三条さんにあんなことを言ったんだ? あんたは言ったんだよな、風花を殺せないのは、俺にそっくりな顔だからだって。あれ、どういう意味なわけ」  朔夜は唇を噛んで顔を背ける。長い睫毛を固く伏せ、彼は呟いた。 「人殺しの本を書いているからって、本当に殺すわけないだろ」 「そういうことを聞いてるんじゃない」  怒鳴ると、ぴくりと朔夜が肩を震わせる。月人はマグカップのコーヒーをぐいっと飲んだ。苦い。 「あんたの復讐ってなに? あんたは本当はどうしたかったの? あんたの本は……あんたがこれまで書いてきた本は、風花の心を傷つけるくらいで満足できるような生易しい内容じゃなかった。あんたの殺意があったよ。なのに、あんたは殺さなかった」 「変な言い方するね。まるで俺が殺したほうがよかったみたいだ」 「そんなことは言ってない。でも、あんたがそれで安らぐなら、俺はそれでもいいって思ってた」  ふっと朔夜が目を見張る。月人はカップを両手で包んで中身を覗きこむ。真っ黒な色の中に自分が映って揺れている。 「朔夜が苦しまないで済むなら、風花も俺も、あんたの心を曇らせたものは殺してくれてよかった。嘘をついて、好きでもない奴の相手して、傷つきながら復讐計画を練るくらいなら、いっそばっさり殺してしまったほうがあんたが楽になるだろうから。だったらそれでいいって、本気で思ってた」  朔夜は唇をわずかに開いて唖然とした顏でこちらを見ている。その彼に月人は尋ねた。 「でもあんたはそういう方法は選ばなかった。ぎりぎりでブレーキがかかった? 人殺しなんてやっぱり駄目だって思いとどまった? それだけだったら三条さんにあんなこと言う必要ないよな。風花の顔が俺にそっくりだから殺せないなんて。もっと別の言い訳考えたっていいよな。あんただったら考えつくだろ。あんな奴らのために殺人を犯すなんてまっぴらだとかさ」  月人はマグカップをかたりとテーブルに置くと、瞳に力を込めた。 「どういう意味で言ったのか、はっきり答えてくれない?」
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