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「君みたいなタイプがナンパなんて珍しいって思ったから。あまり人と関わるの好きじゃないんじゃないの。というか、人のことなんて興味がないか。興味を持つのが怖いか。そんな感じ。違うかな」 「なんでそんな風に思うんですか」 「勘」  短く答えてから、彼は目にかかった髪をかき上げた。 「なんて。正直適当なんだけど。ただね、ええと、つまり」  彼はどう言おうか迷った様子で言葉を探していたが、思い切ったようにこちらに向き直った。 「この間、読んでたよね。水原芹の本」 「あ、ええ。よく覚えてますね……」 「それは忘れられないって」  彼は照れくさそうに笑ってから、長い睫毛を伏せて打ち明けた。 「水原芹って俺のペンネームだから」 「は」  あんぐりと口を開けた月人に、彼は目を伏せたまま、さっきまでの軽口が嘘のようにぼそぼそと言った。 「いや、なかなかいないから。高校生で俺の本読む子。珍しいって思ったからすごく気にはなってた。気になってたし、うれしかった」 「だってさっき、俺のこと忘れてたみたいだったのに」 「そんなの、それこそ陳腐なナンパみたいで気持ち悪いだろ。この間俺の本読んでたよね、みたいなこと言ったら」  肩をすくめた彼に、月人は驚き過ぎて言葉を失っていたが、ゆっくりと脳に血が巡ってくると状況が見えてきた。 「殺したい人がいるって、あれ、小説のネタでって意味だったんだ」  がっかりした。いや、がっかりすることもないのだけど。ただ、仕事のために考えているのだったら、別にそこまでおかしなことでもない。  がっかりなのは、多分、彼との間に感じた親近感が薄れたのを感じたから。 「ねえ」  ふいに彼に呼びかけられ目を上げると、彼は長い睫毛を上げてこちらを見つめていた。なに、と返す間もなく、一歩、歩を詰められる。笑顔がすっかり消えているので妙に迫力があり、とっさに退きそうになった月人に彼は言った。 「君こそ、誰をそんなに憎んでるの」
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