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「一番悪いのは……俺なんだから。なにも気づかず、彼女を死なせた。それを認めたくなくて、憎む相手を見つけて、憎んで、復讐という大義名分を手に入れて。なのに、俺は彼女を裏切った。最後の最後で彼女を裏切って……彼女への罪悪感よりも、他のものを優先させた」  たまらず手を伸ばし彼の肩を抑える。が、その腕を朔夜は振りほどこうと暴れた。 「離せよ!」  叫んで身をよじり、朔夜は月人が手にしたままの原稿を乱暴にひったくる。 「この小説の意味? 全部終わらせるためだよ。けじめをつけるため。目の上のたんこぶの親友を殺して満足した、でもそうしても、望むものは手に入らなかった、結局、誰かを憎むなんてなんの意味もなかったって、復讐できなかった意気地なしの自分を正当化するため。ただそれだけの意味。もうこれで復讐は終わり、そういう意味。それ以上の意味はなにもない。もうこのことで悩むのはもうやめるって、そういう、けじめのための……」  そこまで言って、朔夜は耐え切れなくなったようにひったくった原稿を抱きしめる。 「なのに、なんで、来るの……」 「なあ」  月人は肩を震わせる朔夜の頬にそうっと手を伸ばす。びくっと身を強張らせた彼の腕を掴んで月人は静かに告げた。 「水原芹は素直なのに、朔夜はどうしてそんなに素直じゃないの」  ぐいっと腕を引いて抱き寄せると彼が抵抗する。けれど構わず月人は彼を抱きしめた。 「あんたのこの小説、俺には、一人でいたくないって、そう聞こえた」 「なに……」 「これがあったから、俺はここまで来られたんだ」  腕の中で抗う体が動きを止める。ぎゅうっと胸の中に閉じ込め、月人は囁いた。 「言っておかなきゃってずっと思ってたんだ。あんたに。っていうか水原芹に」  朔夜は黙っている。その彼の耳元に、月人は言った。 「ありがとう」  朔夜が息を呑む。彼の髪に顔を寄せて月人は告げた。 「俺は、水原芹に二度救われたんだ」  水原芹。朔夜と出会う前から自分と共にあってくれたひと。腕の中にいるこの人のなかにいるひと。そのひとに届きますように、と月人は願う。 「一度目は、俺の中の真っ黒でどうしようもない部分と同じ色のものを見せてくれた。俺と同じものを持っている誰かがいる、それを知ったおかげで、俺は、俺自身を壊さないでいられた」  呆然と顔を上げた朔夜の顔を見つめて、月人は言葉を紡ぐ。 「二度目は、俺を救ってくれた朔夜が、今、一人で、苦しいのをこらえて生きてること、朔夜の心を、俺に教えてくれた」 「どうして」  月人の胸の辺りの服が引っ張られる。見下ろすと、朔夜は耐え兼ねたように目を閉じる。 「どうして、そんなこと言うの」
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