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「苦しかったよ。君は俺が利用するには脆すぎて……優しすぎた。憎もうとしたけれど、君は加奈と似ていたから」 「塩崎先生と?」  問い返すと、朔夜は思い惑うように視線をさまよわせてから頷いた。 「我慢ばっかりで、いつも一人で抱えてて。だから放っておけなくて。ただ、それだけだったはずなのに」  月人はそっと彼の頬に手を滑らせ、彼の顔を上げさせた。涙を含んだ黒い瞳を覗きこみ、月人は彼の唇にキスをした。  温かくて少し塩辛いその唇から唇を離し、月人は彼の耳元で囁いた。 「ただそれだけの相手にキスさせちゃうの。あんたは」  朔夜の頬が朱に染まる。ふっと顔を背け、彼は当惑したように呟いた。 「君、ずいぶん変わったね。なんか、かなわない」 「こういう俺は嫌いかよ」  問うと彼は、まったくもう、と零して、首をゆるゆると振る。  この人はかわいい。かわいいし、そして無自覚で無神経だ。  塩崎先生と月人が似ていたから、などと言われて落ち着いてなんていられないことくらい、想像してもいいのに。  ずっと探してやっとたどり着いた、その月人の思いを、朔夜はわかっているようでわかっていないのかもしれない。まだ信じられないのか。  それが悲しくて、でも、もう月人は譲るつもりも彼の気持ちを確かめることをするつもりもなかった。  七年も会いたかったのだ。ただ会いたくて、会いたくて。それだけを思ってここまできたのだから。  七年、一人で孤独に耐えていたのは朔夜だけじゃない。自分だってそうなのだ。だから、もう我慢なんてしない。  抱きしめて口づける。浅く、そして深く。舌をからめるとコーヒーの香りがする。息を吸うことも許さないくらい激しく口づけると、朔夜が驚いたように月人を押しのけようとしたけれど、月人は彼の背中に腕を回して許さなかった。  長い長いキスの後、やっと唇を離すと、軽く息を乱した朔夜がこちらを見上げた。潤んだ目が戸惑いがちに揺れていた。 「どうしたの……」 「どうもこうもないよ」  どうしたのじゃない。まったく。  月人は彼の頭を乱暴に引き寄せる。 「あんたはもう俺のものなんだから」  肩口でふっと彼が息を呑む。その彼の耳元に月人はきっぱりと言った。 「塩崎先生のこと好きかもしれないけど。そんなのどうでもいい。もう俺のなんだから」  子供じみているとは思う。でも、言わずにいられなかった。 「だから、俺だけを見て」
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