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かぁんっ!
金属のぶつかり合う甲高い音と同時に指に走った熱い感触。そして遅れてやってきた激痛はさきほどの比ではなかった。悲鳴だけはどうにか堪えたものの呻き声までは止められない。
「悲鳴はぁ我慢なさらないほうがぁ、楽ですわよぉ」
耳元で囁く彼女の声に、自分の認識が甘かったことを思い知る。
「い、一体なにを……」
「うふふふ。秘密ですぅ」
息も絶え絶えに問う僕を笑うように突っ撥ねると彼女が足元にしゃがみ込んだ気配を感じた。さきほどと同じように、激痛は不自然なほどの勢いで引いていく。
「や、やめ……」
かぁんっ!
また金属音と激痛。同じ場所だった。骨が砕けるような痛みに塞がれた視界の奥で星が飛び散るような錯覚すら受ける。
そしてまたしても僅かの間を置いて痛みが引いていく。
あとはひたすらその繰り返しだった。
僕は声を殺すことも忘れ痛みのたびに悲鳴を上げ続けた。それでも許しを請わなかったのは自尊心が彼女に屈するのを拒んだというのもあるが、耐え続ければいずれ助けがくると信じていたからだ。希望があれば耐えられる。そう思っていた。
「はぁあぁ、少しぃ疲れてしまいましたぁ」
僕も悲鳴の上げ過ぎで喉が潰れそうだったが、結果として先に音を上げたのは彼女だった。少しくらい休めるのだろうか。そんな甘い期待をしていると顔の傍に彼女の体温を感じ、目隠しを外された。
間近で微笑む彼女の手や僅かに見える首元にべっとりと血が付いている。足元に目を向ければ椅子を中心に結構な血だまりができていた。痛みに耐えるのでいっぱいいっぱいだったので気付かなかったが、部屋の中には血生臭い空気が充満している。
これは、まさか僕の血なのか? しかしそんな血だまりができるほど失血したとは思えない。むしろ疲労と喉の痛み以外は調子がいいくらいだ。
本当に、僕はいったいなにをされているんだ? 疑念は不安となって精神を削る。
「部長さんもぉお疲れでしょうしぃ、おやつにしましょうかぁ」
呑気に言いながら彼女が見せた金属製のボウルの中身を見て、呼吸が止まった。
いや、これは、いや、まさか、そんな、なんで……。
「さぁさ、ご遠慮なさらずにぃ」
中身のひとつを摘まみ上げてにこやかに差し出してくる彼女。
僕は言葉を紡げずに震えながら首を横に振った。冗談じゃない、勘弁してくれ。
その様子を見たからだろうか、彼女の笑みが深くなった。
「や、やめ……やめろ、やめてくれ……」
初めてか細く懇願した僕の言葉を彼女が聞き入れるはずもない。それでも頼む、お願いだ。
「い、いやだ……やめろおおおおおおっ!!」
我ながら、さきほどまでの激痛など発声練習に等しいほどの絶叫だった。
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