モグラの炎

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◇  村の中央広場に二人の大道芸人がやって来たのはある休日の午前のことだった。 『本日午後一時から大道芸を行います。皆様ぜひ足をお運びください』  そんなチラシが配られ、村の人間はすぐに興味を示した。  都会に比べれば娯楽の少ない村だ。村の人たちは皆イベント事に目がない。  車椅子に乗ったエレナが父親に押されてバルの家へやって来た。 「あんたも行くでしょ?」 「……でも」 「いいから、早く行こ」  エレナに手を引かれて、バルは仕方なく広場へと向かった。  午後一時が迫ると広場には多くの村人が集まり、イベントの開始を今か今かと待っていた。恐らく、村人全員が揃っていると思われる。そこには当然のようにプクやその仲間もいて、バルの姿を見つけると揶揄(からか)うように近づいてきた。 「お前までなんで来てんだよ! モグラは土の中にいる時間だろ、帰れよ」  ははは、と笑う声が響く。 「うるさいわね! あんたらに関係ないでしょ! バル行こ」  いつの間にかどこかへ消えたエレナの父親に代わって、バルが彼女の車椅子を押す。  それを見たプクはなぜかついてくる。 「あっち行ってよ! なんでついてくんのよ」 「うるせぇなあ。お前に用はねーんだよ」 「はあ? だったらどっか行きなさいよ!」 「うるせぇんだよ」  二人のやり取りを聞きながら、バルはラドン先生がいないことに気付いた。 「あれ、ラドン先生がいない」 「ああ、先生はなんか風邪引いて家で寝込んでるって話だぜ」  いつもよりも不思議と優しいプクが答える。  しばらくすると、広場に大きな拍手が聞こえ、前方に大道芸人がやって来たことを知らせた。 「え、ちょっと見えない。ねぇ、バル。もうちょっと前に行って」  バルは言われた通り、群衆をかき分けて観客の一番前へと行く。横にはプクの姿が。 「ここならよく見えるわ。特等席ね」 「強引に割り込んだだけじゃねーか」 「はぁ? プク、あんた文句あるわけ?」 「べ、別に、文句なんか、ほら始まるぞ」  プクの言葉通り、前にいる二人の大道芸人は観客から三メートルほど距離を取ってショーを始めた。  ピエロの格好をした小柄の芸人は一輪車の上に乗り、ナイフを何本も上に投げる。それを器用に掴み、次々に投げていく。  もう一人の大柄な芸人は目隠しをした状態でナイフを持ち、離れた場所に置かれた箱の上のリンゴを射抜いた。  観客からは技が成功すると大きな拍手が起こり、ドッと声が上がる。 「では、次はメインイベントです」  リーダー役の背の低い芸人が声を出すと、二人は右手を前に差し出した。手のひらを上に向け、意識を集中させている。  次の瞬間、彼らの手にはリンゴほどの大きさの炎が三つ現れ、それをジャグリングの要領で上に投げていく。 「炎操者だ」  誰かの声が聞こえ、広場は一番の盛り上がりを見せる。  ショーが終わりを迎えると、大きな拍手や歓声が響き、二人の大道芸人は深く頭を下げた。 「いやあ、素晴らしかった。どうも、私はこの村の村長をしておる者です」  白髪の村長が彼らの前に行き、握手を求める。それに応えたリーダーと思われる背の低い芸人は、村長に尋ねた。 「そう言っていただけると光栄です。ちなみに、我々は見ての通り炎操者なのですが、この村の炎操者は何人いらっしゃいますか? ぜひ同じ炎操者として挨拶をさせて頂きたいのですが」 「この村には三人の炎操者がおります。ちょっと出てきてくれないか」
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