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「……エレナを、放せ」
前を歩く大男を呼び止める。体が熱を帯びていた。まるで炎のように。
「あ? なんだお前?」
「僕が、お前たちを倒す。エレナを放せ」
「は? お前みたいなガキが?」
「バル、やめとけって! 殺されるぞ!」
尻餅をついたままのプクが怯えた声を出す。
大男はエレナを地面に放り投げると、こちらに向き直り右手を出した。その手の中に炎が集まっていく。
「カシラ! 一人ぐらい殺してもいいよな?」
「好きにしろ」
村長の嘆願する声などが聞こえた気がしたが、もうバルには関係がなかった。
意識はすべてバルの右手に集まる。
炎は意志だ。
どんな意志を込める? なにを望む?
エレナを救うために。ただそれだけだ。
意志を込めた右の拳を力強く地面に突き刺した。
それを受け取った二本の炎はまるでモグラのように地中を駆け回り、敵の真下へと向かう。そして、炎は一気に天へと伸びて柱となった。
噴水のように地面から飛び出した二本の炎は高く高く伸びていく。
二人の敵達は叫び声を上げながら空を舞った。
バルは素早くエレナを抱きかかえると、その場を離れた。
その数秒後、二人の男たちは受け身も取れないまま硬い地面に叩きつけられ、動かなくなった。ううっ、という呻き声だけが聞こえる。
「さあ、みんな! 早く捕まえて!」
バルの掛け声を契機にして、そこにいた村人たちは身につけていたベルトや紐などでやつらを縛り上げる。
バルはエレナを車椅子に乗せた。
「……もう少し早く助けに来てよ。怖かったんだから」
エレナは涙を拭いながらそう言った。
「ごめん」
「でも、カッコよかった。ありがとう」
「お前さ、どうしちゃったんだよ。凄かったぞ」
尻餅をついていたはずのプクも近寄ってきてバルを讃える。するとそこにいた村人全員もバルに拍手を送った。
「バル、ありがとう」
「お前は英雄だ」
「すげーよお前は」
今まで味わったことのない高揚感にバルはただただ照れることしか出来なかった。
「あれ? 大道芸はもう終わり?」
声がした方へ振り返ると、ヨレヨレのシャツを着たラドン先生が寝癖をつけたままやって来ていた。
「ラドン先生、体はもう大丈夫なの?」
エレナがそう尋ねる。
「お陰様で、もう大丈夫です。でも起きたら誰もいなくて、机の上にこんなチラシがあったから急いでやって来たんだけど、どういう状況?」
「もう少し早く来てよ、先生。本当に肝心なところでいないんだから」
「へ?」
訳がわかっていないラドン先生の顔を見て、みんなは大声で笑うのだった。
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