Ⅰ 新時代の戦

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「宿敵フランクルとのミラーニャンをかけた大戦だからね。総大将の王不在というわけにもいくまい……おおぉ、さすがに向こうも気合い入ってるねえ。まるで針の山(・・・)のようだ」  ゴンザロウに言葉を返したカルロマグノは、彼方に見えるフランクルの軍勢を遠目に眺め、冗談混じりの口調でそんな感想を述べる。歳はまだ若き王ではあるが、好戦的なエルドラニアの家風として出陣することも多く、もうすでにだいぶ戦慣れしている。  彼が〝針の山〟と呼んだのは、フランクル軍の前衛に配された数千の歩兵――シュヴァイデン契約同盟国の傭兵が持つ、〝パイク〟と呼ばれる全長4m以上にも達する長大な槍のことである。  それは騎兵の突撃を阻むための備えなのであるが、その歩兵一人々〃の掲げる大槍の林が、遠くからだとまさに〝針の山〟に見えるのだ。 「フランクルはいつも通りにシュヴァイデン傭兵の槍と重装騎兵の突撃で勝負といったところか……で、ゴンザロウ、あの槍襖(やりぶすま)をどう突破する? (さき)のニャンポリーを巡る戦では痛い目にあったからね。やはりツヴァイへンダー(※両手で用いる長大な剣)部隊で隊列を斬り崩すかい?」  そのセオリー通りに配された敵陣形を望みながら、背後の総司令官に国王カルロマグノは尋ねる。  当時、パイクによる槍襖を突破するには、ツヴァイへンダーやハルバート(矛・斧・鎚が一体となった長柄兵器)を装備した歩兵がその穂先を斬り落とし、防御力を削ぐのが常であった。 「いえ、パイクへの歩兵の突撃は被害が甚大過ぎます。今回は竜騎兵(ドラグーン)のみでいこうかと存じます」 「竜騎兵(ドラグーン)のみで? ほぉう…それはまた斬新だね」  ゴンザロウの返答に、カルロマグノは若干、驚いた顔を見せた後、愉快そうに微笑みを湛える。  竜騎兵(ドラグーン)……それは、〝ブランダーバス〟と呼ばれる散弾短銃や、銃身の短いマスケット銃などの火器で武装した乗馬歩兵である。騎兵ではなく、馬で移動をする歩兵であり、下馬して射撃戦を行うのだ。 「そして、竜騎兵(ドラグーン)の射撃によりパイク隊の隊列が崩れた後、騎馬での突撃も重装騎兵ではなく〝胸甲騎兵〟を用いようと存じます」  そんな反応を見せる自らの主君に、ゴンザロウはさらに斬新な作戦の説明を続ける。  胸甲騎兵とは、弾丸にも耐えられるキュイラッサー・アーマー(※分厚くした代わりに重くなり過ぎたため、胴体部と肩・太腿部のみを覆うようにした鎧)のような〝胸甲〟を身に着け、短銃などで武装した騎士である。  従来、戦の花形である甲冑で重装備をした騎士の戦闘は、ランス(※騎兵用の円錐形の槍)を構えての突撃で敵を殲滅させることを主な役割としていたが、火器の発展に伴って彼らの戦い方に変化が生じていたのである。
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