Ⅰ 新時代の戦

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「残念ながら重装騎兵では数でも隊列の堅固さでもフランクルに我が国はかないませぬ。しかし、火器による射撃で出端(でばな)を挫いた後ならば、乱戦に長けた我が軍の方に分がありまする」 「なるほど。大胆にも火器を主軸に据えた戦術か。さすがは大将軍(エル・グラン・カピタン)、ドン・ゴンザロウだ!」  銃火器の出現により変わりつつある戦術を、さらにまた一歩進化させようとしている自軍の総司令官に、カルロマグノは感心した様子で賛辞を贈る。  この黒髪を角刈りにし、太く立派な眉を持つ軍人然りとした中高年の総司令官、じつはエルドラニア軍にも火器とパイクによる方陣形の防御戦術や塹壕を用いた戦法を導入し、大々的な軍制改革を行った革新的な名将であり、世の人々からは〝大将軍(エル・グラン・カピタン)〟と称される傑物なのだ。 「おそれいります…… さあ、陛下も参られた! 始めるには頃合いであろう! 魔法修士による支援の方はどうだ?」  主君からお褒めのお言葉を賜ったゴンザロウは謝辞を述べると、傍らに控える副官に魔術的支援の状況について尋ねる。  魔法修士とは、本来、その所持・使用を禁じられている魔導書(グリモリオ)を用い、この世の森羅万象を司る悪魔(デーモン)を召喚し、自在に使役する魔術を専門に研究する修道士である。  庶民には「邪悪で危険な書物」と御禁制にする反面、こうしてプロフェシア教会や各国王権の許可を受けた者にはその使用が許され、その絶大な悪魔の力を独占しているのである。 「すでに儀式は滞りなく済んでおりまする。もっとも、敵も同様と思われますのでいつもながらに相殺(そうさい)でしょうがな」  総司令官の質問に、側近の武将は眉を「ハ」の字にすると肩をすくめてそう答える。  天候を操ったり、兵器を強化したり……世の事象を味方につける悪魔の力は、当然、戦の折にも重宝されているのであるが、大国同士の場合、両陣営双方が最大限にその魔術を用いるため、大概は相殺してやらないのとほぼ同じ状況になるのが常である。  となれば、けっきょくのところ、あとは現実的な兵力と、そしてその戦術がものをいうこととなる……。
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