ありがとう、大好きな君へ

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 気付けば、彼女は泣いていた。その彼女の近くにいるのに声を掛けても見えていないのか、無視しているのか、振り向いてくれない。その理由は直ぐに分かった。僕は死んだんだ、と。  やっぱり、病気には勝てなかった。どんなに頑張って治そうとしても治らない病気の前では……。  あと少しだけ時間があったら、彼女に伝えることができたかな。あと少しだけ時間があったら、彼女に寄り添えたかな。あと、少しだけ……。  今、目の前に彼女が立っている。でも、彼女には僕の姿は見えていない。彼女は泣いているのか、笑っているのか分からない。笑ってるんだろうと思うけど、泣いているようにも見える。その理由は全部僕のせいなんだ。  美緒、ごめん。僕がこんな弱い人間で。 「颯ちゃん、ありがとう。私、前向かなきゃね。でも、もう少しだけ、いさせて」  僕はそっと彼女の頭を撫でて、優しく抱いた。もう、寄り添うことが出来ないけど、彼女に感謝を伝えたい。  美緒、ありがとう。
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