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後悔が募るだけ
小学校の教室から、場面は一気に変わった。
「羽田先輩、いらっしゃいますか?」
「ああ、今日は遅くなるって聞いてますけど……」
玄関に女子中学生が2人立っている。その2人に、祖母が早紀の不在を告げていた。
この頃の早紀は生徒会長で、何かと忙しい毎日を送っていた。祖父の姿も無い。小学校の頃に他界したのだ。
「それじゃあ、これ……羽田先輩のファイル、体育館に置きっぱなしになっていたんで届けに来たんです」
女子中学生の1人が、早紀が置き忘れたという生徒会の資料らしいファイルを祖母に渡す。
「あらあら、わざわざどうもありがとう。早紀に伝えるから、お名前聞いても良いかしら? このことを知ったら、お礼を言いたいはずなのよ」
「そんな! 羽田先輩がいつも忙しくされているのは分かるので、お礼なんて要りません! 先輩が困っていたらどうしようと思ったので、届けに来ただけなんです」
女子中学生、恐らく後輩なのだろう。改めて、早紀はこんな風に自分の知らないところで後輩に知られていたのだと驚いた。そういえば、紅柄耀も、一方的に自分を知っていたと話していた。
(案外、見ていてくれた人がいたんだな……)
初めて早紀は、客観的に少女の頃の自分を知った。
こんなに、知らないところで慕われていたのだ。
それに気付いていたら、今の卑屈な自分も少しは変わっていたのだろうか?
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