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「本当に、早紀の学校の子たちはいい子ばかりで嬉しいわ。これからも早紀をよろしくお願いしますね」
祖母が後輩らしき2人の女子中学生に頭を下げていた。あの着物を着ている。
「いえ! 私たちの方が、羽田先輩にはいつも感動させられていると言いますか……。本当に、素敵な先輩です」
「そうです。羽田先輩みたいな先輩がいて、学校に行く楽しみがありますから」
年頃の子らしい熱の入った主張をする2人を見て、早紀は思わず照れた。
(ええ――? そこまで言っちゃう? 学校に行く楽しみって、私?)
この思い出を持っている女子中学生が、今もどこかで生活しているのかもしれない。
改めて早紀は、普段の自分がこの頃と違うことを恥じた。
今の自分は、自分を慕ってくれた後輩にも失礼だ。そして、過去の自分にも。
祖母は、早紀がこんな風に後輩から慕われていたのを知っていたのだ。
誇りに思ってくれていたのだろうか。喜んでいてくれただろうか。
「ありがとうね。本当に。早紀、頑張り屋さんで突っ走っちゃうところがあるから、こんな風に忘れ物をしちゃうこともあるかもしれないけど、あなたたちみたいな後輩がいてくれて、幸せね」
祖母はそう言ってニコニコと笑っていた。後輩の2人もつられて照れながらニコニコしている。
(おばあちゃん、ごめん。私、その子たちに慕われてるなんて、ようやく今、知ったの――)
早紀は玄関先で笑い合う2人の女子中学生と祖母を見ながら、これからできることが何かないかを考え始めていた。
(今の私、カッコ悪いね)
早紀は、前を向こうと気持ちを改めた。中学を卒業してから、回り道をしてしまった。
自分らしさなんて分からない。でも、この3人が慕ってくれた自分が、必ずどこかにいる気がした。
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