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思い出しました
気付くと、早紀の目の前に紅柄耀がいる。自分がいる場所も、祖母の部屋だ。
「あ……あれ?」
「ああ、羽田様。一旦、着物の思い出が終わられたようですね――?」
耀に声を掛けられて、なるほど、今は着物の思い出を見ていたのかと納得した。
「いかがでしたか? 初めての思い出鑑定は」
「……なんか、色々考えさせられちゃいました。紅柄さんも、あの後輩の子たちみたいに、私に対して特別な印象を持ってくれていたりしたのかなと思うと……」
気まずそうに笑う早紀に、耀は笑みを返した。
「これは、僕の個人的な意見ですが――。人は、誰かのために頑張ろうと思った時や、他人の役に立てると思った時に、普段以上の力を出すことが出来る生き物なんじゃないかと思うんです。この家に居た時の羽田様は、おばあ様や学校のみんなのために、そんな力を発揮されていたんじゃないでしょうか」
耀が祖母の着物を持ち上げた。早紀は、つい先ほどまで見ていた祖母の姿を思い出す。
「私、おばあちゃんがいなくなってからも……誰かのために頑張れるかな……」
早紀はポツリと呟いて、「その着物、捨てないで下さい」と段ボールに詰めるように耀に願い出た。
耀はニコニコしながら頷くと、早紀の予想を遥かに超えた滑らかな手つきで着物を畳み、段ボールに詰める。
「羽田様は、いつの間にか自己評価を下げていらっしゃったようです。僕が言ったように、あなたはこの町で希望だった。それは、僕だけでなく、何人もの後輩が同じように思っていました。だから、あなたを慕った思い出を持っている人間は、沢山いるんですよ」
耀の言葉に、早紀は素直に頷いた。
先ほど見た中学生2人がたまたま体育館で忘れ物を見つけてくれた子だとすれば、他にも同じように慕っていてくれた子がいたのかもしれないのだ。
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