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「行っちゃったな――羽田先輩……」
「よかったじゃん、SNSの連絡先聞けたんだし」
最寄り駅まで早紀を歩いて見送ると、耀と晃は自分の店に向かって歩き始めた。
「あんまり、印象変わらなかったぜ? 羽田先輩」
「ああ、思い出鑑定したら、なんか昔に気持ちが戻ったみたい」
「……へえ?」
晃は納得したように言うと、息を吐いた。
「自信なさげな羽田先輩が見たかったな……」
「やめなよ、そういうの。自分都合になるのは、みーやんの悪いとこだよ?」
耀は呆れながら晃を見る。この様子なら、晃が早紀に執拗に迫ることはなさそうだ。
「まあ、今日もお疲れ様だね。みーやんは仕事が早いし助かるよ――」
「何言ってんの。ベンちゃんはその口調の割に、やたら作業は早いぜ?」
晃がニヤッと笑う。耀はいつもは細く開いた目を鋭く開き、口元だけで笑った。
「まあ、プロだからね――」
そう言うと、キーホルダーが詰まったゴミ袋を思い出す。
(あの思い出は、ちゃんと成仏させておこう。普通に処分してチカラが暴走したら大変だ)
「なあ、ベンちゃん。なんか食べ行こうぜ。昼」
「いいよお。でも、店戻ってからまた軽トラックで出掛けるの? 『出掛けてます』の看板立てて?」
「よくあることじゃーん。それに、うちらの自家用車って軽トラックじゃーん」
晃がそう言って耀の肩に寄りかかる。
「いや、だからもてないんじゃない?」
耀は小さく呟いて溜息をついた。
朝比町は、今日も平和の一言に尽きる――。
「で、羽田先輩の思い出鑑定ってどうだった?」
「個人情報と企業秘密です!」
<完>
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