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一度だけ、職員室を覗きに行きたい。
先生は教師だった頃を懐かしみたいのか、話が一段落すると靴を脱ぎ廊下に靴下で上がって、当時の机もパソコンも何もないスッカラカンの職員室の面影だけでも感じたいと第一校舎へと向かっていく。
「すぐ追い付くから先に行ってね」
先生から言い残された俺達は、クラスのあった三階へと続く階段に足をかけた。
「よお!相変わらず元気そうでなにより!仲良しのお二人さん♪」
「愛花。一年ぶり♪」
二階に繋がる踊り場にクラスメイトが二人いた。
「そっちこそいつも二人じゃん」
「園佳一年ぶり♪元気だったかな?」
身を寄せ合い仲睦まじい様に傍から見える。背が高くガタイもデカい【宮藤雄二】と、胸はデカいが童顔でちいさい【新開園佳】。
その二人揃って上から手招きして、俺たちを踊り場に呼び込んだ。
「お前らこそ、そこで何してんの?」
俺は風変わりなところに居た幼馴染みに声をかける。
「いやなに、順番待ちを兼ねて迷ってる奴らがいたらこっちだよって呼び込みしてんのさ」
なんせ十年も学校に来てなけりゃ、自分たちのクラスの場所もわかんなくなるだろ?
保育園で知り合って以来の親友は俺にクラスの為に案内役を買って出ていたことを告白した。
「それはご苦労さん」
「なに、いいってことさ。実際オレが一番最初に迷ったからな♪」
「迷子第一号はお前かよ!」
「オレは偉大な先駆者さまだから後輩達の良き導き手になったんだわ!」
グン!と偉そうに胸を張る雄二。
その言動がホントかどうか確かめるため、愛花ときゃいきゃいガールズトークに花を咲かせる新開園佳の意見を聞く。
「えっ?迷う奴なんていなかったよ?みんなもう教室入ってるし、あたしは雄二から言われて愛花ちゃんとあんたが来るのここで待ってただけだし」
「そうなんだ。雄二ありがとう」
「やめてよ!恥ずかしいでしょ?!」
軽いボケとツッコミ。そして保育園からの親友の優しさ。
まるで高校生時代の雰囲気そのままにテレる雄二の肩をパンパン叩き笑いあった俺たちは、本題である【川村茉莉亜】についての会話を進める。
「なぁ…本当に来るのか?」
「ああん?川村のことか?間違いない。任せとけ!」
フンス!
と、海老反りからの頭支えブリッジを決めて自分の体幹と筋力の強靭さを見せ付けるコヤツ。
そういやコイツ、ウェイトリフティング部だったな。今も変わらず鍛えてんのか?意味ないことしてんな。
「マジか?根拠あんのか?」
だから俺は奴の肉の山脈の頂上にある肌剥き出しの“ヘソ天”に、学生時代と同じように自然と腰を下ろす。
「ぐっ!…オ、オレの親父が市教育委員会の事務長だったのは知ってるだろ?」
「ああ」
「盆に実家に帰って、法事で親父が坊主に日時も含めて川村が学校に行くって話をしてたからな。だから間違いない!」
ふーん。
俺は昔のようにいつの間にか雄二の腹の上に立ち上がり、踊り場の高い窓から外を見た。
まだ陽が沈むには早すぎる時間だが、光にオレンジ色が混ざりだしたのは第一校舎の白い壁面から見て取れた。
そして未だに川村が来ていないのも確認できた。
「とりあえずオレ達が川村が来たら案内しとくから、頼むからもう降りて教室に行ってくれないか?」
「わりーわりー♪」
トン。
十年ぶりに高校生気分を味あわせて貰った俺は雄二の腹から降りて愛花と二人、新開と筋肉バカにあとを任せ一気に階段を駆け上がり始めた。
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