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ふう。
二十七歳の川村茉莉亜は、第一校舎と第二校舎を繋ぐ三階渡り廊下を靴を履いたまま歩き、熱い西陽を左半身に浴びながら息を吐き、ハンカチで額に薄っすら滲んだ汗を拭いて案内役を買って出てくれた元クラスメイトの父親で教育委員会の事務局長をしている【宮藤清志】の後ろに付き、傍に若い男性もいる中、十年前は3年4組だった使用感がない教室の前にやって来ていた。
「埃っぽくてすまないね。なにせ閉鎖されて二年近く経つから、それに今は県の所有物ではなく総合商業施設を経営する会社の物件だから先方の許可を貰わないと正門の錠前すら開けられないのだから不便なものだよ」
茉莉亜に口上して預かったマスターキーを使い、廃校前は多目的教室になっていたと聞いた3年4組の、クリーム色の塗装もところどころ剥げた引き戸にキーを差し挿れた。
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