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川村茉莉亜。
十年前の八月十五日。
17時16分。
二泊三日の合勉を終えた3年4組は、学校の南門前に停車した貸切バスから降りようとしていた。
「降りたら運動場に整列してね」
おっとりとした荻谷先生の下車前の注意。
「ハァ〜やっと着いたかぁ〜」
勉強漬けの日々に嫌気が差していた宮藤くんの溜息まじりの言葉と共に、「お疲れ様」と一人ひとりに声を掛けてくれる運転手と「ありがとうございました」と挨拶を交わし最初に降りた。
夕方なのにまだ厳しい西陽に目を細めながら後ろを振り返ると、鬼怒田くんと宮藤くんがふざけ合いながら乗降口で団子になり、その真後ろに園佳ちゃんが二人のやり取りを大笑いしていた。
荻谷先生は早く降りなさいとやんわり注意する。
そして大体荷物を抱えてバスの通路に立ったクラスの皆が早く出ろよ。と言ったり談笑したりしながら順番を待っている。
17時18分。
近くで大きなディーゼルエンジンの音が聴こえたのも束の間。
金属同士が打つかりひしゃげる金切り音、くの字にぺしゃんと折れて斜めになり迫ってきたバス。昇り龍みたいにタンクローリーの尻尾が中身の液体を撒き散らしながら空中を舞う様。
あたしは車内から飛ばされた鬼怒田くんら三人と先生の体に弾かれ、歩道を転がり門柱に激突した。
気を失い、次に眼を開けた時には事故は収まっていた。
鬼怒田くんや先生は落ちてきたタンクローリーと
漏れ出た経口最小致死量1.5 gの弗化水素の下敷きになり、他の人も同様に液体を浴び潰れたバスと運命を共にした。
あたしはバスの帰還を待っていた先生達に安全な場所まで運び出され再び気を失った。
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