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県立 種田西高等学校 3年4組の復活。
「入らないのかい?」
「…え?」
どこかで交わした会話に目眩がする。
そして目前には見覚えのある教室。
その扉を開けた宮藤と名乗る老人に穏やかに問われ、靄みたいな夢現から引き戻される。
「怖いのかい?」
「いえ、大丈夫です」
理由はわからないけれどあたしは一歩、また一歩。教室へと足を踏み入れていく。
『おかえりなさい!!』
耳の奥を鳴らす大きな声音にあたしは驚かされ、荻谷先生らしき老女をはじめ、夏服の生徒たちの姿に一瞬で目を覚まされた。
「…ただいま」
急激に蘇ってきた記憶でここが種田西高等学校3年4組の教室だと気付き、あたしの老いた身体が17歳の若々しさと白い夏の制服に包まれていき、先生以下総数35名の懐かしすぎる面々が拍手で出迎えてくれた。
「待ってたよ。茉莉亜」
先生に教卓の前に誘われ、皆に一礼したあたしの両手をギュッと握ってきたのは、
「…とうくん?」
高校三年生の時に初めて出来た彼。
鬼怒田東吾くんだった。
「まりちゃん!おひさ!見てみて!卒業アルバム完成したんだよ!」
次いでアルバムを広げ全身で抱きついてきたのは、親友といってもいいショートカットが愛らしい日向愛花。
「どうしたのこれ?」
「まりちゃんがあたしたちと別れて哀しくてお焚き上げしちゃったアルバムだよ!こっちに来たから大切に保存してたの!」
バン!
27歳の時に訪れた。
取り壊し前の県立種田西高等学校3年4組だった教室で撮影された一枚。
あの時はただ思い出に見て回っていたけれど、その時に撮られたらしい黒板の前に佇むあたしと将来の夫。そして金色の後光を纏った亡きクラスメイト達と一緒に写るページ。
「結婚するって聞いたから」
とうくんは笑顔で言った。
皆来ているなんて知らなかった。
「おいおい早く撮ろうぜ。時間無くなっちまう」
「そうだよ。準備万端だよ?」
とうくんの友達で付き合う切っ掛けを作ってくれた宮藤君と園佳ちゃん。
彼らに急かされ黒板を背にクラス全員が寄り集まる。
「はい!出来たよ完全版!」
園佳ちゃんと愛花がさっき見せたページの次を捲ると、そこにはクラスメイトと先生が永の別れからの“再会”を祝ってくれる写真が2ページに渡り卒業アルバムらしく載っていた。
「時間だぞ」
宮藤君の声で外を見ると南門にバスが一台止まっていた。
運転手さんは事故の前に挨拶したあの運転手だ。
そしてもう一人、随分前に逝った夫が手を振っていた。
「おめでとう。あたし達がしたくても出来なかった事。最後まで懸命に生きたね」
おめでとう!おめでとう!
先に逝ってしまい、そして再開できた級友達が祝福してくれる。
涙が溢れた。
「さあ…」
手を差し出してくれた“とうくん”の手を握り、いつの間にか運動場に整列していたあたし達は続々と四つの割り箸を足とした茄子マークの“牛バス”に乗り出発進行。
ゆっくり地上を離れ、白雲眩い天上へと駆けていった。
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