プロローグ

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プロローグ

とある小さな村。 ここに一人のうら若く美しい娘が、ひっそりと住んでいた。 穏やかで、優しく、働き者の娘には、家族がいない。 たった一人で、村の外れの小さな家に住んでいた。 ただただ辛く苦しい経験を乗り越え、最後にこの村に辿りついた。 それは、思い出すのも憚られるほどのものばかりだ。 殴られ、犯され、ゴミ屑のように扱われ、攫われ、売られ。 人が望みうるすべてのものを持っていた娘は、ある日突然、その何もかもを失った。 すべて奪われた。 地位、人望、名誉、信頼、家族、友情、希望、愛、そして輝かしい未来ーーー。 彼女は、すべてを失った。 彼女は、絶望していた。 彼女は、死を願っていた。 この村に来るまでは。 だが、この村に来てからは。 今、娘はとても穏やかに暮らしている。 まるで、これまでの苦しみや涙の全てを贖うかのように。 そう、海のような平穏が、今の彼女を覆っていた。
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