約束された筈の未来

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約束された筈の未来

ガゼルハイノン王国の王太子、カルセイラン。 彼は、その美貌もさることながら、思慮と知恵に溢れ、あらゆる知識への造詣が深く、洞察にも優れた非常に優秀な王子だった。 長い間、王と王妃の間には彼以外に子はいなかった。 カルセイランは、かなりの期間、たった一人の直系の王位継承者として育てられていた。 それでも、その優れた資質ゆえに、誰一人として王国の将来を案ずるものはなく、後継者問題など囁かれることはなかった。 そしてその後、王妃は新しい命を授かり男子を生む。 王も国民も歓喜したが、それはそれ。 次期王座はカルセイランのもので揺らぐことはなかった。 カルセイランも、十三も年の離れた弟をとても可愛がり、当然、弟も優しい兄の後をしきりに追いかけ甘える。 優しく美しい家族の光景に、皆は目を細めた。 そんな素晴らしい王太子は、十五歳のときに未来の伴侶として一人の少女を選ぶ。 その少女は公爵家の令嬢で、名をユリアティエルといった。 ユリアティエルはカルセイランより一つ下で、婚約時、十四歳。 やはりその才を深く讃えられる賢く美しい少女だった。 輝く白銀の髪に、穏やかな濃紫の瞳。 ほっそりとした身体に、洗練された物腰。 穏やかな気質と、涼やかな声。 どこまでも美しい令嬢だった。 穏やかで優しい性格の二人はとても相性が良く、共に過ごすときはいつも楽しそうに笑っていて。 国の政策について、福祉について、教育について、税の用途について熱心に語り合い、若いながらも有用な政策を数多く生み出し、大臣たちからの信頼も厚かった。 既に多くの実績をあげていた二人は、その御代では間違いなくこの国に繁栄をもたらすだろうと国王からの期待も高く。 そして勿論、民衆からの人気も高く。 なんの憂いもなかった。 そこにあったのは、輝かしい未来だけ。 カルセイランとユリアティエルは、王子の成人後はすぐ婚姻を結び、王太子および王太子妃として現国王の執務を助ける筈だった。 その筈、だった。 ある日突然、国王よりカルセイランとユリアティエルとの婚約の解消が宣言されるまでは。
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