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クリエイターズ・ハイ 1
きみは、描いてて楽しい?
周囲にほめたたえられるもんだからと、慢心じゃありませんでした。
ただ描くことはじいちゃんの供養としてたのに、俺は自分が居ませんでした。
砂の城。
鳥も虫も居ない湖面。
誰も踏んでない雪原。
わかんないよ、劣等感すら追いつかず、逃げきれずそもそも退路がなくて、道踏み外して奈落の底へ落ちる。
裸にされるのに似てても、肉まで脱がされ骨を砕かれてもまだそこに俺は居ない。
それだけ。
スランプ、なんてなまやさしいもんじゃない。
たった一撃のなんてことないジャブだったろうあのヒトにしてみたら。
狂ってでもない限り先天性になんか欠けてない限り、到達できない高みが、この世にはある。
どうしようもないのに。
自分さがしの旅に出たって、あなたはそこに居るのにそれ以上どこへ行きたいの?
なんでそれしてんの?
生きたいから。
ただ生きたいから。
ただその方法を取って生きてくことを、望んだから。
それで狂っちゃったんだ、俺も。
嗚呼。
里仲睦月は目をさました。
外は夕方の光でそこに居る。
うたた寝してたみたいだ。
悪夢見た。
中坊のころ睦月のことを粉砕してくれた現実のリピートだった。
夢なんて百パーセント自分のフィクション。
とか、いつかどっかの科学の本で読んだのを思いだす。
違うじゃん!
記憶がっつり系のノンフィクションじゃん、もー!
現代精神論の限界にため息が出る睦月だった。
あー、女子の生理じゃないんだから。
でも女の子の成分を胸の内に探して、みっけて、そのキモチがよろこぶ誰かさん与城武人を想ったら、気持ち晴れたよすごいね恋、て。
で、ちょっともぞもぞした。
ポーチ片手に階下へ降りて、洗面所の鏡の前に立つ。
リップ引いた。
オリーブの緑をベースとした黒髪に、赤をほんのり帯びた橙色がなじむ。
唇むにむに、指先でとんとんして、なじませたらなんてナチュラル。
ちょっとやそっとの女の子じゃ絶対勝てない、男の娘。
色々角度変えて鏡の前、笑顔の練習。
うん、明日はこんな感じ。
睦月と云う少年は物腰柔らかくて人あたりよくって、いつもほんわかしてて武人に守られてるみんな言ってる儚いヒト。
みんなの評価なら。
違うよねェ。
家族が帰宅して、ごはんしてお風呂、自室で勉強に、武人と白石恵介と藍田鈴成とLINEして、寝る前のわずかな覚醒の中、みんなに、ごめん、て、舌出したくなった。
俺さ、そんな純じゃないんだよ。
傷だらけで麻痺しちゃってるだけなんだよ。
そればかりが外面に出ちゃってて。
得することが多いからそのまま。
みんなの羨望のまなざしも浴びてて気持ちいいし。
過去に負った痛い目の、それを乗り越えた強さへのごほうびかな、て、捉えている睦月だった。
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