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まったく、女子高生なんて性悪なもんだ、と北園五郎は独り言ちた。
教員として高校で生物の授業を受け持つようになって数年。新人の頃は生徒になめられることも多かったが、この頃では漸く一端の大人として扱われるようになった。と、思っていたこの夏。産休補助として赴任した学校で出会ったのは、性悪としか言いようのない一人の女生徒だった。
後ろで一つに結い上げられた髪は濡れたように黒く、艶やかにうねって背中に落ちる。光の加減では青くさえ見える白い顔に、そこだけ花が咲いたような赤が落ちていて、あ、これは唇だ、と気付くのに一拍要した。一番の問題は、目。綺麗とか汚いとかはわからない。いや、間違いなく綺麗なのだけれど。こちら側の汚い部分まで見透かしてくるような、水晶のような瞳。それで射るように真っ直ぐ見つめてくるものだから、この子は瞬きを知らないんじゃなかろうかと心配で、こちらの方の目が乾き、息が詰まり、心臓が窮屈になる。
黙っていてさえそんなであるのに、この生徒ときたら……
「北園先生、大変です。亀ロン・ディアスが生殖器を出しています」
などと真顔で言うのだから、たまったものじゃない。
幼少より教師を天職と信じており、女子生徒とは出来る限り穏便に距離を保って接したい五郎にとって、初めて遭遇する明らかな危機であった。
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