幸福と武器

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 ホタルはザルパーク国の一般市民階級の人間だった。とにかくこの国はお金が無かった。それを一般的に貧しいっていうのだと思う。でもホタルはこの国が悪い場所だとは思わなかった。 「いらっしゃいませー。防具はいかがですかー。」 「おい、ガキンチョ。毎日毎日元気な声でご苦労なこったな。ところで売れてんのかよその防具。」 「あ、ボーデンおじさん。こんにちは。売れてるならもっと元気よく売りますよ。いっらしゃいませー。」ボーデンはやれやれといった感じて首を横に振った。  そうこうしているうちに母が迎えに来た。 「ホタルー。そろそろ夕飯の時間よ。今日はもう店じまいしたら?」ホタルは今年で十歳になる。まだ学校には行けて無かった。家に授業料を払うお金がないのだ。だから父が作っている防具を売っているのだ。 「ねえ、ホタル。希望の国の使者が今度この国にやって来るそうよ。なんでも直接ザルパーク国に技術を教えに来るみたい。これでこの国も発展するかも。」母は夕食の時にそう語りかけた。 「希望の国?」 「ええ、あの国の文明は発展していて、貧しい国にも、その技術を教えようって意識があるの。だから希望の国って言われてるのよ。」 「へぇー。そうなったらもっと防具売れるかなぁ?」 「そうなるといいわね。学校に行けるかもよ。」その時はまだ子供だったし、そんなものだとしか思っていなかった。  しばらく時が経ち、希望の国は文明開化を宣言しザルパーク国にやって来た。ホタルは文字通りザルパーク国はこれから良い方向に発展していく。そう思って今も防具を売っていた。 「はあはあ…。ホタル、大変なんだ。」 「どうしたのボーデンおじさん。」 「お前のお母さん、何者かに斬りつけられて意識がないんだ。」 「えっ…。」その一瞬、言われたことの意味が理解出来なかった。だが気づいた時には走っていた。ボーデンが後ろから付いて来て道を教えてくれた。人だかりが出来ていた。誰か倒れている。見たことある服装。母だった。 「もうだめだ。息がないぞ。」そんな声も聞こえてくる。 「一体どうなってるんですか?」 「移住者だ。希望の国の奴がやったんだ。」 「ホタル、頼む防具を買いたい。」 「ああ、持っていけ。そして侵略者を許すな。」  希望の国なんてのは嘘と幻想で固められたまやかしに過ぎなかったのだ。文明開化するのは表向きの理由で裏では植民地化が進められていた。希望の国の人間はザルパーク国の人間を殺しても罪に問われない。希望の国はザルパーク国よりも高い位の国であるという現実を突きつけられた。皮肉な事にホタルが売っている防具は飛ぶ様に売れていった。これから戦いの始まりだった。希望の国という我々に絶望を与えた国との。
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