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その日、手帳を破りメモされた工藤さんの番号に電話をかけてみた。
3コールで彼は出た。
『あの、昼間コンビニでお声をかけてもらった鴨下鳴海といいます』
――ああ、あのかわい子ちゃん。よくかけてきてくれたね。
じゃらじゃらじゃら、ぴこぴこぴこ、と彼のバックサウンドが煩い。
『今、なにしてましたか』
――パチ屋。俺はやらないんだけど、友だちのつきそいで。ベンチ座ってコーヒー飲んでた。
『そうなんですね』
――今度1回、デートしない?
『で、でえと。わ、私でよければ』
それが私たちの物語の始まり。
彼は高級車に乗っていて、それである日ドライブをした。
紅葉の綺麗な山に連れて行ってもらった。
自然が好きなんだ、そういう彼の横顔が素敵だった。
その帰り。
別れるのが名残惜しいと感じていたところ。
ある場所に車は停まった。
金融会社の無人ATM機。
「どうしたんですか?」
「今俺、金なくてさ。ちょっと金おろしてきてくれる?」
「でも消費者金融って……」
「別にいいんだ。でもこのあとのホテル代なくて。無理にとは言わないよ」
ホテル代……!
工藤さんとそういう仲になれるなら。
「行ってきます」
「すぐにおろせないみたいです……」
車に戻ると、私はとても申し訳なく思い、身を縮めた。
「行こう」
「ど、どこへ?」
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