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十字架のピアスが片方落ちていた。
――女物のピアス?
私はピアスはつけないし、工藤さんも耳に穴は開いていない。
助手席と運転席の間のスペースに、彼が置いておいたブランドものの財布に目が止まる。
見ちゃダメだ……見ちゃダメ……。
そう思いながらも、手は勝手に動いていた。
運転免許証が挟んであり、私はそれを見て驚いた。
“後藤俊一”――名前はそう書かれてある。
免許の写真は見紛うことのない、工藤さんの麗しい顔だ。
どういうこと?
工藤純一っていう名前でしょ?
私は世界が揺らぐのを覚えた。
すぐさま免許と財布を元に戻す。
あのひとは、誰?
何が真実?
お待たせ、と彼はややあって車に戻ってきた。
彼がふ、と財布に目を遣ったので私はどきりとした。
「財布、見た?」
「見るわけないです」
「だよね。その言葉信じるよ。鳴海ちゃんは素直で従順で産で優しいいい子だもの」
「そんなことないです……工藤さん」
最初から、私が聞き間違えてたのか。
今までずっと、工藤さん工藤さんって言っていたのに、彼には後藤さんと聞こえていたのか。
だから間違いを指摘してこなかったのか。
「解るよ。俺、そういうの。初めてきみを見た時に直感が働いたんだ」
彼は何事もなかったかのように車を発進させた。
私は手のなかに拾ったピアスを握りしめていた。
「今日もこれからホテル、行こうね」
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