歪んだ薔薇色の世界

5/6
前へ
/6ページ
次へ
彼は流れるように言う。 「私……あなたの家に行ってみたいです」 「俺んち? ダメダメ。妹と一緒に暮らしてるから」 「妹さんと……なんだ、そっかー」 なんだ……そうか。そうなのか。 私は安心しきってしまった。 「じゃあ、落ちてたこのピアスは、妹さんのもの?」 私は彼にそのアクセサリーを翳して見せる。 「え? ああ。ピアスなんて落ちてた? 妹に返してやらないと。そういえば失くした失くしたって騒いでたっけ。そうか、妹が車に乗った時落としたんだな。そうなんだな」 探し物が見つかって嬉しいのか、彼は少し早口になった。 そんなところが可愛らしい。 「それで、ホテル代なんだけど」 「あの、私もうお金なくて」 「ATMあるじゃん。寄ろうよ」 「でも……」 「じゃあいいよ。今日は真っ直ぐ帰ろう」 「嫌です。もっと一緒にいたい」 「じゃあどうしようか。金ないしなー。どこにも寄れないな」 「……」 「実はね、俺、きみと一緒に暮らしたいなって思って、資金貯めてるんだ。一緒に暮らすためだよ。鳴海ちゃんは協力してくれないの?」 一気に目の前が薔薇色になる。 「一緒に? それって同棲ってこと? お金貯めてくれてるんですか?」 「ああ、嫌ならいいんだけど。俺は急いでないんだけどね。広い家に住みたいから結構貯金してるんだ。だから手持ちがなくてさ」 「私も協力します!」 工藤さんはいつもの郊外のATMに車を停めた。 私は自動支払機のなかに入る。 借り入れの限度額までギリギリだった。 だけど、もう少し。もう少しだけ彼に支援すれば夢のような生活が待っている。 彼のお陰で精神が安定しているんだ。 これくらいの投資はしないと。 一緒に住むんだから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加