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彼は流れるように言う。
「私……あなたの家に行ってみたいです」
「俺んち? ダメダメ。妹と一緒に暮らしてるから」
「妹さんと……なんだ、そっかー」
なんだ……そうか。そうなのか。
私は安心しきってしまった。
「じゃあ、落ちてたこのピアスは、妹さんのもの?」
私は彼にそのアクセサリーを翳して見せる。
「え? ああ。ピアスなんて落ちてた? 妹に返してやらないと。そういえば失くした失くしたって騒いでたっけ。そうか、妹が車に乗った時落としたんだな。そうなんだな」
探し物が見つかって嬉しいのか、彼は少し早口になった。
そんなところが可愛らしい。
「それで、ホテル代なんだけど」
「あの、私もうお金なくて」
「ATMあるじゃん。寄ろうよ」
「でも……」
「じゃあいいよ。今日は真っ直ぐ帰ろう」
「嫌です。もっと一緒にいたい」
「じゃあどうしようか。金ないしなー。どこにも寄れないな」
「……」
「実はね、俺、きみと一緒に暮らしたいなって思って、資金貯めてるんだ。一緒に暮らすためだよ。鳴海ちゃんは協力してくれないの?」
一気に目の前が薔薇色になる。
「一緒に? それって同棲ってこと? お金貯めてくれてるんですか?」
「ああ、嫌ならいいんだけど。俺は急いでないんだけどね。広い家に住みたいから結構貯金してるんだ。だから手持ちがなくてさ」
「私も協力します!」
工藤さんはいつもの郊外のATMに車を停めた。
私は自動支払機のなかに入る。
借り入れの限度額までギリギリだった。
だけど、もう少し。もう少しだけ彼に支援すれば夢のような生活が待っている。
彼のお陰で精神が安定しているんだ。
これくらいの投資はしないと。
一緒に住むんだから。
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