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ゆくゆくはお嫁さんになれるんだから。
私はおろしたてのお金を持って、車に乗ろうとした。
すると、彼はスマホをいじっていた。
「ごめん。会社から呼び出された。これから行かなきゃ」
「そうなんですか……残念です」
彼は手を差し出す。
私もつられて手を差し出し、握った。
「違う違う。金だよ、金」
私は自分が恥ずかしくなる。
「ごめんなさい」
「これはちゃんと貯金しておくから。任せて」
「はい」
じゃあ、と言って、彼は内側から助手席のドアを閉めた。
走り去る彼の車を見ながら、私は夢を見た。
空き缶をからんからんと引きずって、結婚式を終えた新郎新婦はウエディングカーで走り去る。
乗っているのは私と工藤さん。
そんな幻想を抱きながら佇んでいると、ふと大粒の雨が降ってきた。
私は多幸感のなか、行ってしまった彼の車の方向をずっとずっと眺めていた。
ずぶ濡れになるのも構わなかった。
雨音が祝福の拍手の音に似ていた。
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