第七章 ねんえきのまもの

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第七章 ねんえきのまもの

 レストランの店主からのワイバーンの依頼から数日、俺とミンクの修業は順調に進んでいた。しかし結局、ミンクはスライム以外をテイムできるようにならなかった。 「行くっすよ、師匠!」 「来い!」  今日もミンクと訓練していた。俺は聖剣ではなく鉄剣で戦う。 「行くっすよ、みんな!」  ミンクは一斉にスライムを解き放つ。俺は鉄剣でスライムを斬っていくが、元々スライムは斬撃や打撃に耐性がある。核を正確に狙わなければ、魔術付与のしてある剣や奇跡の付与してある剣、神の加護がかかっている聖剣以外では倒せない。  普段なら核を狙うことくらい造作もないが、五〇匹以上のスライムが一斉に襲い掛かってくる以上、そんなことはしていられない。  だが、俺には魔術という新たな選択肢がある。 「《火球》」  鉄剣を右手で持ち、突き出した左手で放った魔術が、スライムを焼き払う。が、きりがない。 基本的に初級魔術である《火球》で対象にできる魔物は一匹だ。アルマが使った上級魔術である《火嵐》なら、標準した魔物を一気に対象にできる。が、下級魔術しか使えない俺には夢のまた夢だ。  ここは一旦距離を稼ごうとするが、足がやけに重くて動けない。見てみると、地面から静かに寄って来ていたスライムが足に纏わりついていた。 「これはっ――」 「逃がさないっすよ! 師匠‼」  やられた。ミンクは正面から全スライムで突撃すると見せかけて、地面からも密かにスライムを進軍させていたのだ。俺の足にへばりつかせ、俺を逃がさないために。 「降参だ」  打つ手のない俺は、ミンクに降参を宣言した。スライムたちの進軍が止まり、ミンクのところに潮が引いたように戻っていく。 「聖剣を使ってなかったとはいえ、スライムだけで勇者を倒しちゃうとはね」 「大したものですよ、ミンク。あなたなら聖剣を引き抜いて本物の勇者になれるかもしれませんね」  二人がミンクをベタ褒めする。 「本物の勇者って? まるで師匠が本物の勇者じゃないみたいじゃないっすか」  それを聞いて、俺たちは顔を見合わせる。 『あ……』  ミンクには、俺が偽りの勇者だという話をしていないということを、みんな気づいた。 「ミンク、落ち着いて聞いてくれ」 ミンクにヤナに話したように、俺が偽りの勇者になった経緯を頭から爪先まで話した。それだけでは信じないかもしれないと、右腕の切断面も見せた。 基本的にこの世界の人間は勇者信仰者だ。ミンクも勇者信仰者なら、俺のしたことは許されないことで、自分の手で裁こうとするかもしれない。 「どんな過去があっても、師匠は師匠っすよ」  だが、そんな俺の不安を無視して、清々しい笑顔でミンクは言い切る。 「そうか……。安心した」  俺は右腕に布を巻き直しながら、密かに安心していた。やはり、今までよくしてくれていた人間に殺意を向けられるのは、嫌だ。 「大変だ!」  俺たちの仲が深まったのも束の間、町からカンカンと警鐘がなり、見張りが声を張り上げる。 「行くぞ!」 「ええ」 「はい」 「うっす」  俺たちは町の見張り台へ向かった。 「何があった⁉」  俺たちは見張り台をよじ登り、兵に声をかける。怪しむ視線を向けられたが、聖剣を見せると二つ返事で状況を説明してくれた。 「キングスライムが町に迫ってきています。スライムの下敷きになった場所は草木一本生えていません」  どうやら、勇者の出番のようだ。  俺は一人町を出て、聖剣を構えて立っていた。土煙を巻き上げてスライムが町に迫ってくる。この町のどんな建物よりも大きい、半透明の粘液の身体に核を持ったスライムが、とんでもない勢いでこちらに向かってくる。  だが、俺は勇者だ。逃げるわけにはいかない。気分を奮い立たせ、聖剣を掲げる。キングスライムと言ったらスライムの中では最強。ワイバーンよりも格上の相手だ。出し惜しみはせず、最初から最大威力の一撃を叩き込む。 「《聖撃》」  聖剣を振り下ろすと同時に、聖なる力が極太の刃となってキングスライムへ飛んでいく。前述したように、スライムには斬撃が効きにくいが、これは聖なる力の斬撃だ。魔物には致命傷となりうる。  だが、キングスライムは《聖撃》が直撃したにもかかわらず、以前と変わらない速度で町へと向かってくる。よく見ると、《聖撃》によって粘液が蒸発し若干身体が縮んでいるが、数秒後には核から粘液が補充され、元通りの大きさに戻った。  そう、キングスライムには再生能力がある。といっても、別にこれはキングスライムだけの能力ではなく、全スライムが核を破壊しない限り再生し続ける。  ではなぜキングスライムだけがそこまで強敵なのか。それは単純にその大きさにある。身体が大きく、核に攻撃が到達しにくい。あるいは粘液で威力を著しく削がれる。  つまり、俺の最強の一撃が効かなかった時点で、少しずつ削っていくしかない。 「アルマ! ヤナ!」  俺は見張り台に待機させている二人に向かって手を振る。これで俺の攻撃が通用しないことと、助力が必要なことが伝わるようになっている。  すぐにアルマの魔術とヤナの奇跡がキングスライムに飛んでいく。それに合わせて俺ももう一度最大出力の《聖撃》を放つ。その全てがキングスライムに直撃し、キングスライムが半壊するが、届かない。どれだけ粘液を壊しても、その中心にある核が無事ならまたすぐに、ああこの説明をしている間に再生してしまった。  勇者にとって必要なのは力ではない。聖剣を引き抜くことでもないと俺は思っている。勇者にとって必要なのは常に人々の希望であること。簡単に言えば「諦めない」ことだ。何度倒れても立ち向かう。それこそがヒーローにおけるもっとも重要なことだと思う。  だが、勇者である俺は諦めかけていた。最大出力の《聖撃》を二発連続で放ったことにより、腕は震え、聖剣を持ち上げるのもままならない。決して、この震えが恐怖によるものではないとここで強がっておく。  俺は所詮偽物だ。偽りの勇者だ。本物の勇者が苦戦するような、本物の強敵は倒せない。それがここで証明されたような気がして、視界が涙で滲む。 「師匠!」  俺が膝から崩れかけたその時、俺を誰かが後ろから支えてくれた。アルマとヤナは見張り台で魔術と奇跡を放っている。ということは、ここに来れる仲間はただ一人。 「何をしに来た? ミンク」  後ろから抱き着くようにして俺を支えるミンクに顔を見ずに問いかける。顔を見なかったのは、泣き顔を見られたくなかったというのと、敵に背中を見せない程度には、まだ俺に戦う意思があったんだと思う。 「師匠は一人で抱え込みすぎっす」  ミンクが俺を支えたまま話しかける。 「師匠か困ってたら、私が助けるっす。アルマ姉さんも、ヤナ姉さんも、きっと助けてくれるっす」  「そんなことは分かってる。大体、これが抱え込み過ぎだっていうのなら、それはミンクの勘違いだ。勇者は前線に立って魔物の信仰を防ぐのが役目だ。俺がその役目を満足にこなせていないのは、俺が偽りの勇者だからだ」  ミンクの歯ぎしりの音が聞こえた。 「確かに師匠は偽りの勇者っす。でも、だったら本物の勇者と張り合うのは無理があるっす」  その通りだ。だが、誰かに直接そう言われると心にくる。っていうか何しに来たんだこいつ。俺の心を折りに来たのか。 「だから、もっと私たちに頼るべきっす。勇者の力で本物に敵わないなら、仲間の力で底上げすればいいんすよ」  俺は無意識に、ミンクの顔を見ていた。ミンクは俺の顔を見て、ニカッと笑う。 「私はスライムしかテイムできない駄目なテイマーっす。でも、逆にどんなスライムでもテイムできるとしたら?」  俺から離れ、俺を追い越し、ミンクは進む。 「止めろ。そんな憶測でお前を失うわけにはいかない」  俺は膝をつき、聖剣を手放し、ミンクに手を伸ばす。きっと見張り台の連中には、俺が惨めに見えたことだろう。きっとミンクが本物の勇者に見えたことだろう。 「大丈夫っすよ。あの子の声が聞こえるんで」  ミンクは走り出す。助走をつけ、勢いよくキングスライムの粘液にダイブした。当然だが、粘液の中には空気がない。  ミンクを取り込んだキングスライムが咆哮を上げる。本来、スライムには声帯がないので、声は上げられない筈なのだが。  次の瞬間、眩い光に辺りが包まれる。俺も左手で目を守りつつ、様子を見守る。 「師匠―!」  明るいミンクの声が聞こえ、光が収まる。そこには、キングスライムの頭の上で手を振るミンクの姿があった。  俺はきっと、苦笑いを浮かべていたと思う。  ミンクにキングスライムを召喚石に仕舞わせ、町に戻った。町の入り口には兵士をはじめ、たくさんの人たちが集まっていた。 「勇者様、助けてくださりありがとうございました!」  みんなが口々にその台詞を口にするが、俺は清々しい気持ちでミンクの背中を押した。 「俺は何もできませんでした。この町を救ったのはミンクです」  それを聞いて人々は口々に言いあう。 「ミンク? あのスライムしかテイムできない駄目テイマーの?」 「勇者様に取り入ったんじゃないのか?」  俺はミンクの肩をポンと叩き、笑顔で言ってやる。 「見せてやれ」  ミンクはニパッと微笑み、軽く敬礼して言う。 「うっす!」  左手で召喚石を取り出すと、地面に叩き付ける。町中に突如現れたキングスライムに、人々が慌てふためいたのは言うまでもない。俺とミンクはそんな人たちをキングスライムの頭上から見下ろし、拳を突き合わせていた。  俺たちが町にいるとまた強力な魔物が町にやってくるかもしれないということで、翌日の朝にこの町を出立つすることにした。 『乾杯‼』  出立前の最後の食事ということで、レストランを貸し切っている。 「悪いなミンク、あまり時間が取れないで。別れの挨拶とかしたかっただろう?」  ミンクはこの町出身だ。いくら家族がいないと言っても、別れを済ませたい人ぐらいはいるだろう。 「問題ないっす。どうせ家には私しかいないし、唯一挨拶したかったこの店の親父さんにはいま挨拶できてるっす」  ミンクはそう言って酒を飲む。アルコールは普段魔物に嫌われるので飲まないそうだが、今日は特別な日なので飲んでいる。 アルマは酒に強いので普段の食事から飲んでいる。 ヤナは酒に弱いし酒癖が悪いので飲んでいない。 俺は普通に飲めるが、別に好きでもないし、ヤナに付き合って飲んでいない。 「師匠も飲みましょうよ。お注ぎするっす」 「いや、俺は……」 「たまにはいいじゃない、飲みましょうよ」  アルマに背中を押され、ミンクが俺のコップに酒を注ぐ。  たまにはいいかと思い、酒に口を着ける。酒は高いものを求めればキリがないので、この酒はそこまで高い酒ではないが、美味い。この土地独自の酒だろうか。 「ささ、ヤナ姉さんも」  ミンクがヤナにも酒を勧める。 「いえ、私は……」 「止めとけミンク。ヤナは酒癖が悪いから」  ヤナもそれは自覚しているのだろう。黙って水を飲む。こういう時仲間外れにするのは気がひけるが、ここで暴れられても困る。 「まあいいじゃない。一口くらい」  アルマが自分のコップをヤナの前に持ってくる。 「そうですね。祝いの席ですし、一口くらいなら」  そう言って、ヤナが酒に口をつける。 「ヒック……」  ヤナの顔が赤くなり、頭がぐわんぐわんと揺れる。 「お、おい。まさか……」  ヤナがガンッとコップをテーブルに叩き付ける。 「今回私全然活躍しなかったじゃないか! チクショー‼」  駄目だった。ヤナは酒癖が悪いだけでなく、酒に弱かった。それにしても一口で酔うって……。 「いや、でもヤナは聖職者だから……」  俺がフォローを入れると、ヤナがギロリとこちらを睨んで近づいてきた。 「聖職者だから攻撃力が弱いと思ったら大間違いだっつーの!」  聖職者は基本的に回復や防御がメインだ。攻撃手段がないわけではないが、パーティーを組むのなら、攻撃力の高い戦士や魔術師が攻撃役。聖職者は防御や回復要員になるのが鉄板だ。 「むっ。ちょうどそこに魔物がいるな。見せてやろう。私の攻撃力を!」  そういうと、ヤナは両手を重ね、何もいない場所に向けて奇跡を放とうとする。 「止めろ! 店が壊れる!」  俺が止めに入るが、一歩遅かった。 「《聖撃》」  極太の光線がヤナの重ねた両手から放たれ、店の壁に大穴を開ける。 『あちゃー……』 「どうだ見たか! あっはっはっはっは!」  俺たちが頭を押さえる中、ヤナは大笑いした後。バタンと倒れ、満足そうな顔で眠り始めた。  翌朝、俺たちは町を出て、魔王討伐の旅を再開した。 「いい町だったな」 「そうね」 「そうですね」 「当然っす。あたしの生まれ育った町っすから」  俺たちは町を見渡せる丘から、街を一望し、感傷に浸っていた。 「それにしても昨日は楽しかったですね」  さりげないヤナの一言に、俺、アルマ、ミンクの三人はビクリと肩を震わせる。ヤナが倒れた後、店主にこっぴどく怒られ、壁の修理代も払うことになり、結局そのままお開きになったのだ。 「まあ、あれは俺たちも悪かったからな」 「そうね」 「あたしたちにも責任があるっす」 「?」  ヤナが何のことかわからないまま、俺たちはヤナのフォローをした。  魔族領に入ってしばらく、俺たちは魔物に遭遇した。ゴブリンと酷似しているが、身体が大きく、牙や角が生えていて、棍棒を持っている。オーガだ。 「俺が前に出る。アルマが攻撃、ヤナは防御と回復、ミンクはサポート」  俺は素早く指揮し、先頭に備える。  オーガが咆哮を上げ、空気が震え、肌がビリビリと痛む。それでも、俺は盾を正面に構えながら突っ込む。 「《聖光》」  ヤナの奇跡によって、辺りが眩い光に包まれる。その隙に俺はオーガの左足首を斬る。加えて、ミンクのスライムが右足を固定。これで本命の攻撃を躱せない。 「《爆撃》」  アルマの魔術により、オーガの身体が爆炎に包まれる。オーガは胸と顔に重度の火傷を負ったが、まだかろうじて生きている。  俺がオーガに飛びつき、聖剣を首に突き刺して止めを刺す。 「よし、連携も大分取れてきたな」  ミンクがパーティーに加入したことで、新しく連携を組みなおしたのだ。ミンクはサポーターということになった。サポーターとは、攻撃や防御等の直接戦闘に貢献する行動を行わず、仲間の攻撃や防御の補助を行うポジションだ。  一見すると戦闘に参加しないので不要なポジション、不遇なポジションなどと言われがちだが、いるといないとでは大違いだ。腕のいいサポーターと一度でも組んだことがあれば、そのありがたみが分かるだろう。  オーガを解体し、焚火をして肉を焼く。 「不味い……」  オーガの肉は硬い上、味もよくない。そもそも、魔物とはいえ人型の生き物の肉を食べるのは抵抗がある。 「そう? 確かに硬いけど、食べられないほどじゃないわ」  アルマは酒のつまみにオーガの肉をつまんでいた。そもそもアルマが食べ物を嫌ったところを見たことがない。意外と食べられれば気にしないタイプなのかもしれない。 「味は良くないですが、残すのは教義に反します」  聖職者であるヤナは不味いのを認めながらも、無理して食べていた。 「確かに硬いっすね~」  ミンクは自分が食べるのを早々に諦め、自分のテイムしているスライムたちに分け与えていた。スライムは獲物を溶かして捕食するので、肉が硬かろうと関係ない。  魔族領に入ってしばらくはオーガやワイバーンの単発的な攻撃が続いた。流石にスライムやゴブリンのような下級の魔物は少ないが、いないというわけではない。スライムは片っ端からミンクにテイムさせている。  すると、珍しい魔物に出くわした。 「デーモンか?」  身体が真っ黒で角が二本、蝙蝠のような皮膜の翼。俗にいうデーモンだ。 「勇者か?」 『っつ⁉』  俺たちはそれぞれ武器を構え、身構える。今まで言葉を話す魔物はいなかった。そもそも、魔王は魔物の王なのだ。知能を持った魔物は数えるほど少なく、そして、必ずと言っていいほど強い。 「私は魔王様側近のスカル。貴様らに恨みはないが、ここで死んでもらう」 「名持ち!」  俺たちが旅をして初めての名持の魔物との遭遇だった。基本的に、魔物の名前は種族名であって、個体名ではない。名付ける者がいないし、必要もないのだ。逆に言えば、名持ちの魔物は、魔王が名前を与えるに足ると判断しただけの実力があるということだ。  俺は真っ先に飛び出し、ヤナがそれと同時に《聖光》を放つ。いつものパターンだ。だが、今まで通りにはいかなかった。 「ふんっ‼」  スカルが鞘から引き抜いた剣を一振りすると、光が消え失せた。俺は武器のことはメンテナンスの仕方程度しか知らないが、あの剣はヤバい。一見するとただの錆びだらけの剣だが、その奥底には只ならぬ力が秘められている……気がする。 「アルマ、あの剣を鑑定しろ」  俺は、あえてスカル本体ではなく、剣の方を鑑定させた。アルマも俺があの剣を危険視しているのに気付いたのか、黙って従う。 「《鑑定》」  アルマは鑑定結果を言わなかった。 「結果は?」  焦れた俺が結果を催促すると、渋々言う。 「鑑定不能」  鑑定不能。つまり、アルマの魔術が抵抗されたか、アルマの経験不足だ。だが、アルマはもう何百年も生きている。とっくに経験値なんてカンストしているだろう。つまりあの剣は「人間の理から外れている」ということだ。  突っ込んできたスカルの剣を、俺の聖剣が受け止める。二振りの剣はバチバチと火花を散らして反発しあう。  聖剣と互角の出力を出せる武器はそう多くない。というかない。聖剣は神が人間に与えた魔王を倒すための唯一の神器なのだから。 「その剣、一体なんだ?」  俺がその質問をぶつけると、スカルは笑った。正確には、俺はデーモンの表情なんて読み取れない。だから分からないのだが、このタイミングで顔の筋肉が動くってことは笑ったのだと思う。 「自慢したいのは山々だが、生憎と魔王様に口止めされていてな」  お互いの剣と剣が打ち合う間、仲間たちが何もしていないわけではない。アルマは俺がスカルから離れるタイミングで魔術を撃てるように狙いを定めているし、ヤナは新たな奇跡の準備をして、発動タイミングを図っている。ミンクはスライムを地面伝いに這わせ、スカルの足に纏わり付かせている。 「邪魔な雑魚だな」  スカルが自分の足に纏わり付いたスライムを気にし始めた。その隙に、俺は一気にスカルから離れ、距離を開けると同時に叫ぶ。 「今だ!」  俺の合図で、アルマとヤナが動く。 「《爆撃》」 「《聖撃》」  スカルは避けようとするが、ミンクのスライムが足に纏わり付いてそれを許さない。 「ちっ!」  スカルは剣を振り、魔術と奇跡の威力を相殺させようとするが、流石に両方は相殺させられないらしい。 「がっ、っは……⁉」 アルマとヤナの合体攻撃を受け、スカルが吹き飛ぶ。元々、ヤナの奇跡や聖剣は魔物に特攻がある。魔物であるスカルにヤナの奇跡は耐えられないだろう。 慎重に吹き飛んだスカルを追うと、胸から煙を出して大の字で倒れこんでいた。 「私の負けだな……」 スカルは震える右手で剣を握る。 「申し訳ございません。魔王様」  スカルは自分の左手首を剣で斬り付ける。青い血が手首から剣へ伝う。血を浴びた剣はボロボロと崩れ落ちてしまった。  おそらく、剣を俺たちに渡さないために、予め負けそうになったら剣を自壊させられるようにしておいたのだろう。 「敵ながらあっぱれだな」 「そうね」 「大した忠誠心です」 「あの剣惜しかったっすね」  俺たちは、スカルの墓を作り、黙祷を捧げた。
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