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彼に導かれ、上がる階段。二階に着くまでに彼は言う。
「ああそうだ。小雪のお父さんとお母さんは今も元気で、小雪が昔住んでいたあの家に今でも暮らしているよ」
「え」
「だからなんの心配もいらない。またすぐ会えるからね」
両親が健在かどうかなんて心配していなかった私だったが、彼が私にどうしてこんなことを教えてくれたのかと予想すれば、感謝が募った。
おそらく私はもう幾度となく、両親の生死を確かめたり確かめたがったりしたのだろう。
「ありがとうございます、ロイジさん」
彼の背中にそう呟くと、彼は「ロイジでいいよ」と笑っていた。
「ここが僕の仕事部屋。汚いけど驚かないでね」
二階のとある一室。そこの扉が開かれた瞬間、私は口元に手をあてがった。
「うわあ……」
顔、顔、顔。そこには私の笑顔が所狭しと並べられていたから。
私はその中でも一番幸せそうな私に近寄った。
「私……こんな風に笑えるんですか……?」
その絵の中の私は、まるで恋する乙女のようだった。愛しい誰かを眺めているような、そんな愛に満ちた顔をしていた。
肩に置かれた温もりで、横を向く。
「その絵は美術館で飾られていたものと同じ日に描いた絵だよ。タイトルは『今日から私は』。僕たちが入籍した日に描いたんだ」
「入籍……ロイジと結婚した日……」
「そう。それから小雪は毎日こんな風に僕へ笑顔をくれるんだ。だから僕も頑張れる」
今日から私は、愛する人と笑顔で生きていきます。
もしも私がこのタイトルの続きを考えられるとしたら、そんな文章をつけたいと思った。
「ロイジッ」
私がぎゅうと彼の胸へ飛び込んだのは、この人を心底愛おしく感じたから。
「ロイジ、大好きっ」
どこで出逢った彼なのか、付き合うきっかけは何だったのか。たった五分の間でその全てを知ることはできないけれど、それでも今私の瞳に映る彼が全てだから、そんなことは気にならない。
私はあなたを愛している。
幸せに浸れば笑みが溢れた。
私を暫く抱きしめた彼はその腕を緩めると、腕時計に目を落としてこう言った。
「小雪。僕は君の夫のロイジでここは僕たちふたりの家だ。愛してるよ」
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