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ペン先が走り出した。
検察官。弁護人。書記官。裁判官。そして、被告人。
黒鉛筆は法廷を愚直に切り取っては、枠一杯に厳めしい場景を描き表していく。
時間はそうない。1枚の下書きに掛けられるのは最大でも15分。
今回は閉廷を待たずして、全5枚を仕上げなければならない。
法廷画家には、正確性を伴った素早い写生技術が求められるのだ。
私の本業は一介のイラストレーターである。
急遽SNSのダイレクトメールへテレビ局から依頼が来た。
法廷画というのはどうやら、
メディアが絵描きに声を掛けて委任することが多いらしい。
滅多にない経験が今後の活動に役に立つのでは、と私は二つ返事で引き受けた。
その初仕事が今日であった。
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