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だめ。法廷画は裁判の状況をありのままに描かないと。
私個人の感情なんていらない。犯行内容がどれだけ酷たらしくとも。
予備の鉛筆に持ち替えて束の間、疎ましい哂い声が耳元を漂う。
堪らず顔を上げると、被告人が証言台に肘をつき、
裁判官の座る法檀側を不敵に睨み付けていた。
「へへっ、くっだらない。どうせ牢屋行きなんだからさ。
さっさと済ませてくれよ」
すかさず裁判長が注意を与える。
「被告人、静粛に」
被告人は大人しく黙りはしたが、終始尊大な態度で膝を組んでいた。
腹立たしさにやり切れない私は、素描を覆う違和感にふと気が付く。
目を疑った。証言台に立っているのは人間ではなかった。
歪みに歪んだ骨格。漆黒で塗られた肢体。
吊り上がる不気味な目に加え、張り裂けんばかりに開き切った口。
この世の生物とは思えない異形の悪魔だった。
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