54人が本棚に入れています
本棚に追加
恐怖を覚えているのに、鉛筆を動かす手は依然止まらなかった。
細部までもがたちまち鮮明になっていく。
渾身の抵抗も空しく、遂に醜い命が宿される。
私はさらに続けて、絵の中の悪魔が狂態を演じる幻覚に苛まれた。
どこからともなく血生臭さが嗅覚を刺激する。
声が出るなら「逃げて!」と全員に向かって叫びたかった。
胸騒ぎは嘘をつかない。
被告人は突然立ち上がり、座っていた椅子を乱暴に蹴り飛ばした。
「だから、早くしろって言ったよな? もういい。殺しちまうわ」
頑健な手には、絶対に持ち込めないはずの包丁が握られている。
証拠品として提出された凶器と同じく、理性は露も帯びていなかった。
法廷中に動揺の波紋が広がる。
最後の一線を引くと、私は意識が次第に遠のいていくのを感じた。
虚脱した全身が背もたれにぐったりと寄り掛かった。
最初のコメントを投稿しよう!