悪魔は裁けない

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 恐怖を覚えているのに、鉛筆を動かす手は依然止まらなかった。 細部までもがたちまち鮮明になっていく。 渾身の抵抗も空しく、遂に醜い命が宿される。 私はさらに続けて、絵の中の悪魔が狂態を演じる幻覚に苛まれた。 どこからともなく血生臭さが嗅覚を刺激する。 声が出るなら「逃げて!」と全員に向かって叫びたかった。  胸騒ぎは嘘をつかない。 被告人は突然立ち上がり、座っていた椅子を乱暴に蹴り飛ばした。 「だから、早くしろって言ったよな? もういい。殺しちまうわ」 頑健な手には、絶対に持ち込めないはずの包丁が握られている。 証拠品として提出された凶器と同じく、理性は露も帯びていなかった。  法廷中に動揺の波紋が広がる。 最後の一線を引くと、私は意識が次第に遠のいていくのを感じた。 虚脱した全身が背もたれにぐったりと寄り掛かった。
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