父親の優しさ

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父親の優しさ

子供の時から親父が怖かった。少しでも礼儀を怠ると、平手打ちやらげんこつやらが飛んできて、俺の体はいつもアザだらけだった。 そんな親父が嫌いだった俺は、自分の子だけにはそんな思いをしてほしくないから、優しい父親になることにした。まずは子供を甘やかすことから始めた。妻がやめろと言ってもやめなかった。息子は一人っ子だった。 甘やかされて育った俺の息子は、自己中心的な性格に育ったが、彼自身が嫌な思いをしていなければ俺はいいと思った。 そしてあいつも中学生になった。 「お? どうしたリュウキ? 友達と遊ぶのか? 」 息子リュウキは、髪も茶色に染め、ピアスは開けまくり、全身アクセサリーまみれだ。そんなリュウキは、リビングから出ていこうとしていた。 「どうでもいいだろそんなこと。うっせぇ親父だな」 「そんなこと言われたら、お父さん悲しいなぁ」 「うざ」 ソファに座りながら、ニコニコリュウキを送り出す俺。でかくなったなぁとつくづく思う。 「ねぇあなた? 昔から言ってるけど、あんまりリュウキを甘やかさないでよ? 」 キッチンから手を拭きながら来た妻は、眉を寄せながら言った。心配性なので、こんなことは日常茶飯事だ。 「いいじゃないか。子供は自分が好きなようにいきればいいんだよ」 「うーん、そうなのかしらねぇ」 -数時間後- 深夜1時。玄関の扉が開閉する音が聞こえた。この時間まで自宅での仕事をしていた俺は、リビングに行き、リュウキに会いに行った。 「お帰りリュウキ。楽しかった? 」 「うっせぇ」 なんとなくリビングの電気をつけた俺。目に飛び込んできたのは、顔中アザだらけなリュウキの姿だった。 「リュ、リュウキ!! どうしたんだその怪我!! 」 「なんでもねぇよ。いちいちうるせぇんだよ」 「救急箱持ってくるからな! 」 最近はこんなことが多くなってきた気がする。 -数日後- リュウキが学校からの手紙を出さないなんてことは知っていた。だから、適当に放ってあったリュウキの鞄を開けて、中からグチャグチャになったプリントを出すのが、毎日の習慣であった。 「ん? ああ、もう三者面談の時期か」 おじさんになって時間の経過が早く感じてしまう。年はとりたくないもんだな。 「リュウキー。そろそろ三者面談行くぞー」 下から呼んでも部屋から出てこない。前はこんなことなかったのに。 寝てるということでもないようだ。仕方なく、体調不良という理由で俺だけ行くことにした。 -学校- 「じゃあ先生。今日は宜しくお願いします」 「はい......早速なんですが、こちら成績表です」 机を挟んで向こう側にいる教師は、二枚折りの紙を差し出した。 「あ、ありがとうございます。えーっと......」 成績表で一番多いのは、1という数字だった。主席日数も、30日近く足りない。 「リュウキくんなんですが......高校に進学するのは難しいかと......」 「......ま、まあその時はその時で、俺が食わせていくか、仕事探しますんで」 「は、はぁ。では、今度の保護者説明会の......」 こうして、二人しかいない三者面談が終了した。家に帰ると、珍しくリュウキがリビングでスマホをいじっていた。画面はすぐ隠されてしまったが。 「なあリュウキ。成績表もらってきたけど」 「いらねぇよ」 俺はその後、勇気を出して喋った。 「リュウキ、流石に......学校には行こうな? 先生も心配してたし」 リュウキは黙った。しばらくそうしていると、リュウキは立ち上がり、俺と目を合わせた。 「ど、どうした? 」 「なんでさぁ、叱ってくれねぇんだよ」 予想外な言葉に、俺は硬直した。リュウキは話し続けた。 「親って普通さぁ、子供のこと叱るもんだろ? 子供ってさぁ、親見て育つもんだろ? だったらオメェがもっとちゃんとしろよ」 「え......と」 「甘やかされて、甘やかされ続けて、俺はなんだ? お前のおもちゃか? 俺だって人間なんだぞ? オメェと同じ!! 血が流れてる人間だぞ!! それをよかれと思ってこんなんに育てやがって!! 先輩に殴られたのは俺がわりぃよ。課題やらねぇのも俺がわりぃよ。だけどな!! この性格ばっかりは!! 今まで育ててきたお前が悪いと俺は思ってるぞ!! 」 嵐のようにそう言ったリュウキは、リビングから出た。後に玄関のドアが開く音が聞こえた。 放心状態になった俺は、なにも考えずに、リュウキがおいていったスマホの電源をつけ、中身を見た。中にはこうあった。 『美容専門学校ってどんなところ? 中学生が知りたい美容の道!! 』 検索履歴にはこうあった。 『ツーブロック やり方』 『美容師でも難しい髪型』 『美容専門学校 入学費』 『バイト 稼げる』 俺はゆっくりとスマホの画面を切り、リュウキの部屋に向かった。 部屋を開けると、学校の課題のプリントやらで、踏み場がない。それらを掻き分けながら進むと、机の前に出た。そこにあったのは、散髪練習用のマネキン三体。その手前には、美容の雑誌が山積みになっていた。
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