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いつ獲っても旬の魚の味がする珍魚がいたという。春に獲れば鯛、夏に獲ればアジやサバ、秋に獲ればサンマや鮭、冬に獲ればアンコウの味がした。しかしその珍魚の名前や姿を覚えている者はいない。味が分からないために市場に卸すことは難しく、それならばと漁師たちが自ら食したところ、「自分が食べたのは『サンマ』だ」と、その味がする魚を食べたと思い込んでしまった。このように、その珍魚の肉には記憶を改ざんしてしまう効果があるらしい。
この珍魚の存在は、漁に参加したものの、その肉を食べなかった一部の漁師たちに伝わっていた。しかし年々、網にかかる数が減り、百十年ほど前から獲れなくなってしまったそうだ。珍魚を実際に目撃した漁師たちもみな亡くなってしまい、その存在は幻となってしまった、と言われている。
そこで質問だが――君が先日、寿司屋にて時価で注文していた「旬の握り」、あれは君が主張するように、本当に「カツオがのっていた」と、自信を持って言えるかい? 私には、かすかに虹色に輝く白身魚がのっていたように見えたんだが。
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