1.クロノス

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1.クロノス

翌日の昼休み、明日香は屋上へと続く階段を、お弁当と水筒が入ったトートバッグを持って駆け上がっていた。 いつもは友達と教室でお弁当を食べるけど、今日だけはパス。 “クロノス”で騎士になれば、お姉ちゃんを救えるかも知れない、なんて、ただでさえ疲れきってるお父さんお母さんに言える訳がない。 だけど、こんなもやもやした気持ちのまま、何もしないでなんていられない。 ゲームに詳しくないから、”クロノス”が何かもわからないけど。 屋上へと続く扉を開けた瞬間、2月のまだまだ冷たい風が吹き抜ける。 寒さに怯みそうになる心を奮い立たせ、明日香はお目当ての人物を探す。 ……いた! 同じクラスの斉籐(ただし)。 ぱっと見はシュッとした眼鏡男子。 でも毎日ひとり屋上でお弁当を食べてる変わり者。 だけどクラスで浮いてるかと言えばそうでもなくて、ゲームの話題の時だけは、いつも友達と熱心に話している。 「斉籐くん」 もぐもぐ、ごくん、と咀嚼していた鮭おにぎりを飲み込んでから、彼は口を開く。 「森さん……何か用?」 彼の横に座り、明日香はお弁当を広げながら話しかける。 「斉籐くんて、ゲーム詳しいよね?」 「まあ、それなりには」 「“クロノス”って知ってる?」 「うん。全世界と繋がれて、色んなゲームがプレイ出来る今大人気の仮想空間。森さんも興味あんの?」
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