クロノスからの招待状

2.はじめての挑戦

先のことばかり考えて、目の前の一射に集中しきれていなかった。
だけど、まだゲームは始まったばかり。
失敗は引きずらず気持ちを切り替えよう。
ゆかりは、ふうっと息を吐いてからもう一度前を向く。そして肩幅に足を開き、背筋を伸ばす。
「お願いします！」
後ろで見ていた明日香たちの目にも美しく映る一礼をしてから、ゆかりは矢を射る位置まで進み出た。

『Ready(レディ)、Set(セット)』

弓を引き矢を放つという点は共通しているが、アーチェリーは命中精度の高さを競うスポーツ、対して弓道は精神鍛練を伴う武道である。
対戦相手と点数を競うのではなく、向き合い闘うべき相手は己自身。

『Shoot(シュート)！』

狙いを定め放った矢は8点を射抜く。
だが、ゆかりは淡々とした様子で一歩下がり、もう一度正面を向いて一礼した。

続く3射目、ゆかりは9点を射抜いた。
それを見ていた直が呟く。
「すごいな。……最初ミスしたのを引きずらないって、簡単なことじゃないよな」
自分の場合、最初相手にポイントを取られた試合は、そのまま流れを持っていかれて負けることが多かったな、と明日香は思う。
「うん。あの短時間で気持ちを切り替えて、立て直すって、すごいことだよ」