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土曜日、明日香は近所にある土屋フェンシングクラブを訪れていた。
練習場の中からは、剣と剣の交わる音が聞こえてくる。
来年高校受験で勉強に専念したいという理由で休会したばかりだったから、本当は気が進まなかったけれど、あと2人メンバーがいないとゲームをプレイ出来ない状況で、なりふり構ってなどいられない。
「失礼します」
靴を脱いで練習場に入ったら、クラブの代表でもある土屋コーチが明日香の許にやって来た。
「どうした明日香?もう剣持ちたくなったのか?」
首を横に振り、明日香は答える。
「ちょっと大輔くんに用事があって来ました」
「わかった。今呼んでくるから」
そう言ってから、耳許で囁く。
「今日香の意識はまだ戻らないのか?」
「はい」
お姉ちゃんはもう少しでエペのジュニアカテゴリー日本代表に手が届く位置にいた強い選手で、コーチもその将来に期待をかけてた。
そんな矢先に事故に遭い、更に意識不明になってしまったお姉ちゃんを心配するのは当然なんだよね。
明日香のひねくれた気持ちを知ってか知らずか、コーチは更に続けた。
「明日香は?ちゃんと食べてちゃんと眠れてるか?」
「……はい」
親御さんに遠慮して我慢し過ぎるなよ、と明日香の肩をぽんと叩き、土屋コーチは遠ざかって行った。
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